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ルベルはすぐにタークの元へ走った。騎士団へ報告して増員を呼ぶためである。拠点に戻ると、タークは戦闘の準備をしているところだった。
「ターク隊長! ルベルです」
「おお、ルベルか。マナはどうした?」
タークはおおよその状況は把握しているようだ。緊張感で分かる。
「先輩は分体守護者のところへ行きました。結界の確認のためだと思います」
「そうか。よし、まずは住民たちの避難からだ。できる限りこの拠点に集めろ」
「了解致しました」
ルベルはタークの指示で住民避難に向かう。が、一つ気になることがあった。
「ターク隊長。他の騎士団員は、どちらに?」
「今外に出てるのが五組、こちらで待機が二組。外の奴らは、この状況だ。あまり期待するな。待機のもう一組は奥で静養中だ。とは言え、二人共、とても戦闘ができる状態ではない。戦力にはならん」
「と、と言うことは……」
「そうだ、俺とお前たちだけしかいない。まあまあの絶望的な状況だ」
タークは明るく親指を上に向ける。ルベルはとんでもないことを聞いてしまった。てっきりみんなで力を合わせて戦うものだと思っていた。
「心配するな。まずは前線で俺がある程度食い止める。お前は後方で住民避難を頼む。ここの住民たちはタフだ。訓練もされている。避難が終わったら助けに駆けつけてくれたらいい」
「わ、分かりました」
ルベルは住民避難が終わったあとのことは考えないようにした。先のことはどうなるか分からない。とりあえずここは住民避難に専念しようと心に決めた。
「ルベル、分かったな。ならさっさと住民避難に向かえ!」
「りょ、了解致しました!」
ルベルは拠点を出て、街の広場へ向かった。有事の際はまずは広場に集まり、騎士団が用意した避難所へ向かうことになっている。広場にはもう既にかなりの住民が集まっていた。
「遅くなりました。騎士団の者です!」
ルベルが広場で住民に声をかけると、思ってもみない声が返ってきた。
「騎士団だと? たった一人で何ができる? 他の団員は何をやってるんだ!」
「そうだそうだ、俺たちの高い税で暮らしてるんだから、こういう時に役に立たってもらわないと困る」
「あの魔物たちは何だよ? お前たちがしっかりと守らないからこうなるんじゃないか! お前たちの責任だ。お前たちで何とかしろよ」
よく見ると、声を上げているのは反対派の集会をしていた奴らだった。この期に及んで、騎士団批判とはおめでたい奴らだ。まずは自分の命を優先するものではないのか。騎士団を批判しても魔物は帰ってくれない。そんなことも分からない奴らのために、自分たちは命をかけて戦っているのかと思うと、馬鹿馬鹿しくなる。
「うるせぇー!! 命が惜しけりゃ、まずはその口を閉じろ。騎士団はもう俺しかいない! 分かったか。これが現実だ。それに今魔物がこっちに来ないよう、戦ってる騎士団も一人だ。お前たちのクソみたいな頭でも分かるだろう。絶体絶命ってやつだ! 分かった奴からとっとと避難を開始しろ! 万が一にも生き残れたら、このルベルがお前たちの話を聞いてやる!」
ルベルが叫ぶと、声を出していた者たちが静かになり、住民たちは雪崩れるように避難場所まで走り始めた。
「押すな! 子供もいるんだ。子供たちを優先しろよ」
ルベルは、住民たちが一人残らず避難したのを確認するまで誘導を続けた。最後の住民が避難を終えると、一気に疲れが押し寄せてきた。
「ったく。人間ってのは馬鹿ばっかりだな」