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 アーセック王国の国王ヘンリルは王妃と二人の子供を自室に呼び、人払いをさせた。この部屋には家族四人だけしかいない。二人の子供は長男のセントルと長女のアンリで、セントルは時期国王の座が国民の前で約束されている。セントルは今年で十九歳になる。頭が良く、周囲への気配りができる上に、時には果断な命令も出すことも厭わない、絵に描いたような模範的な王子だ。アンリは今年で17歳になる。セントルとは違い、考える前に行動に移してしまう武闘派の王女だ。かつて分体結界付近に現れた魔物の討伐の際には、王宮騎士団と分体騎士団を率いて見事その役目を果たした。騎士団の中には『戦女神』と呼び、彼女を崇拝する者も少なくない。


「顔を上げよ、セントル、アンリ」


 ヘンリルの言葉を聞き、セントルとアンリは顔を上げる。迷いのない真っすぐな目だった。セントルは、何の憂慮もない、この二人に次の代を託してもこの国は安泰だと、思いたかった。平時であれば、いや正に今この国が抱えている大問題さえなければ安泰であった。この二人が力を合わせてこの国を豊かにしてくれる夢を見ることができた。だが、現実はそう甘くはなかった。ヘンリルは、二人の子供たちにこの国で起こっている問題について話さなければならなかった。なぜ今、勇者選抜試験を行わなければならないかを。


 セントルは、何故今になって父から呼び出しがかかった理由を測りかねていた。国内は小さないざこざこそあれ、大きな問題についてはほぼ目途がついている。この場で改まって伝えることがあるとすれば勇者選抜試験のことしか考えられない。勇者選抜試験は一大行事だが、たちまち国の行く末を左右するものではない。一つ引っかかるとすれば、昨年急に行方をくらませた王宮守護者筆頭のミラベルのことくらいだ。だが、彼女は未だに行方不明のまま。彼女が何かよからぬことを考えているとしたら、国を左右することになりかねない。彼女は王宮守護者として国のかなりの深部まで関わっていたはずだ。


 セントルと違いアンリは確信していた。間違いない。今回の勇者選抜のことだと。アンリは今年になって急遽勇者選抜を行うことに疑問を抱いていた。結界を維持するための魔力が慢性的に枯渇気味だということは以前から言われていたが、守護者たちの創意工夫によってまだ数十年は安泰であるというのが国の認識だ。何事も先手を打つというのは政治の基本であることは間違いないが、時期を急ぎ過ぎているところが不自然だ。結界の事に関して多くを知らされていない。王と守護者のごく一部の間だけの秘匿事項となっている。王はその秘匿事項の一部を話そうとしている。この勇者選抜を行うこととなった背景を。アンリはそう確信していた。






「そこの角を右に曲がれ」

「あっ、はい。ここですね」

「よし、そのまま真っすぐ進め。その先にお前の泊まる部屋がある」

「はい。で、あのー、なんでこんな変な隊列になっているのですか? アンフィスさん」


 マナとルベルはランクルからは一旦解放された。勇者選抜の本番まであと二日あるため、今日はゆっくり休めることとなった。二人は野宿と鉄格子の中を旅してきたため、久々のまともな寝床に歓喜した。その泊まる部屋まではアンフィスが案内してくれることになったのだが、アンフィスのルベルに対する件の誤解がまだ解けていないため、ルベルがマナとアンフィスの二人の少し前を歩かされていた。もちろんルベルには道順が分からないため、後方のアンフィスによる道順の指示に従って歩いていた。


 ルベルはマナに向けて誤解を解いて欲しいという眼差しを向けてみたが、無意味に終わっていた。よく考えたらマナにそんなことを期待する方が間違っているのだが、頼る相手がマナしかいない状況には絶望しか見い出せなかった。


「よし、そこだ。その建物がお前の泊まるところだ。話はつけてある。後は自分でやれ」

「は、はーい……」


 ルベルは期待するのを止めた。騒いでも仕方ないと思い、言われた通りに建物の中に入って行った。


「ささ、マナ殿はこちらです」


 アンフィスは、先程までのルベルに対する態度とはまるで違う仕草と口調でマナを案内し始めた。


「マナ殿はお疲れでしょうから、特別いい部屋をご用意させて頂きました。聞きましたよ。あの変態と数日間寝食を共にされていたとか。さぞかし自身の身を守ることでお疲れでしょう。いや、仮にあの変態が襲い掛かってきても、マナ殿でしたら一太刀で黙らせることができましょう。でも安心して下さい。今日はそんな心配をせずにゆっくりお休み頂けますので」

「あのー……アンフィスさん?」

「何でしょうか。マナ殿」

「私が種を撒いておきながら、なんですけどね。ルベルはそこまで変態ではないんですよ。もう少し優しく接してあげてくれません、かね?」

「マナ殿、私には分かるんです。あの男は真性の変態だと。よりにもよってマナ殿の部屋に侵入して不貞を働こうとしたのです。マナ殿は女の私から見ても魅力的です。見にくい男共が劣情を催してしまうことは往々にしてあるでしょう。だが奴は一度ならずとも二度まで行為に及ぼうとしたのです。奴には常習性があり、かなり危険です。マナ殿でなければ、取り返しのつかないことになっていました。心配しないで下さい。マナ殿のことは私が守ってみせますから」

「行為って……そこまでのことでは……」

「いいえ、マナ様。あなたは強い。でも女です。男に簡単に隙を作ってはいけません。ましてやあんな変態と行動を共にするなど言語道断です」

「は、はーい……」


 そう言って胸を張るアンフィスに、マナは何も言い返せなかった。そして心の中でルベルに誤った。


「あとでランクルに説明して訂正してもらお」







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