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 何となく騒がしくなってきたと思い、ルベルは目を覚ました。王宮結界を傷つけた者として連行されていることを忘れていれば思いの外、快適な旅だった。鉄格子で囲まれているが、鉄格子の重量が荷馬車の振動をある程度緩和してくれているおかげで、ゆっくり睡眠をとることができた。起き上がって鉄格子の隙間から見える景色は、まさしく王都だった。


 領域騎士団員は必ず一度は王都を訪れなければならない。それは任命式があるからだ。領域騎士団に入団する者は、腕に覚えがあるが出自が不明な者が多いため、任命式の時くらいしか王都に近づくことができない。ルベルもマナも自分の任命式以来の王都となる。


「先輩、起きて下さい。王都に着きましたよ」

「ん、まだだよ……まだできてないよ」


 マナは完全に寝ぼけていた。


「先輩、何寝ぼけているんですか? 起きて下さーい」

「まだできないんだよ……、ん、でもありがとう。これでせかいを……」


 マナは何度起こしても寝ぼけるだけで目を覚まさなかった。ルベルは諦めてそっとしておくことにした。と、その時荷馬車の外で揉めているような声が聞こえてきた。鉄格子の隙間から覗いてみると、自分達を連行した王宮騎士団員が誰かと話している。


「だから、あいつらは重罪人ですよ。何で連れていけないんですか?」

「いえ、上からの急報が届いてしばらく門の外で待つように言われているので」


 どうやら、門番と揉めているようだ。


「あっ、副団長。来て頂きありがとうございます。この方が言うことを聞いてくれなくて」


 ルベルは嫌な予感がした。あの王宮騎士団員は確かに言っていた。ランクルが王宮騎士団の副団長だと。


「マグラット、ここは私の顔に免じて引いてくれ。この二人に関しては私が預からせてもらう」

「ランクル副団長がそこまでおっしゃるのであれば……」


 どうやら自分たちを連行した王宮騎士団員はマグラットと言うらしい。そしてマグラットはランクルには頭が上がらないらしく、門番には反抗していたのにランクルが出てくると大人しく従っていた。そしてそのランクルが荷馬車に近づいてくるのが見えて、ルベルは咄嗟に覗き見るのを止めて檻の中で大人しく座り込んだ。


「ランクルさんが来る。まずい、あのことをまだ覚えていれば確実に怒られる」


 ルベルが弱気になっているところ、視界の隅に人影が現れた。それは間違いなくランクルであった。身長はそこまで高くないが、端正な顔立ち、細いながらもしっかりとした体躯の持ち主。魔力量も申し分なく、間違いなく騎士団の中の実力者の一人だ。その青い瞳に睨まれたら最後、もう逃げることはできない。ランクルは檻の中を覗いている。


 ルベルは覚悟を決めてランクルの方を見た。するとランクルはルベルには一目もくれず、マナを睨んでいた。ランクルは明らかに怒っていた。一見するといつもの澄ました表情を浮かべているように見えるが、よく見ると目がうっすら充血している。そして眉間に皺を寄せながら、何よりも小刻みに震えていた。


「あ、あのー。ご迷惑をおかけします。ランクルさん」


 ルベルは勇気を振り絞ってランクルに話しかけてみた。ランクルはルベルの声には耳を傾けず、ひたすら一点を見据え続けている。その視線の先にいるのはマナである。そしてそのマナはいびきをかきながらぐっすり寝ている。


「馬鹿野郎!!! 起きろーーーーー!!!!!」


 急にランクルが大声を出したので、ルベルはびくっと体を震わせた。ただの威圧ではなかった。魔力が込められており、体の内臓をまさぐられるような圧を感じた。魔力が高い者は感情を昂らせたとき、魔力が体から漏れ出ることがあるが、まさしくそれであった。


「ん、うるさいなぁ」


 マナはそれでもまだ起きない。普通であればあの咆哮を体で受ければ、目など一瞬で覚める程の威力であるが、マナには通じていない。それに対してランクルの怒りは最高潮に達したようだ。急に剣を抜いて檻の中に入ってきた。ルベルは必至でランクルを止める。


「離せっ、俺はこいつを斬らねばならん。この馬鹿野郎だけは許せん」

「ランクルさん、落ち着いて下さい。ちなみに先輩は野郎ではありません」

「離せと言っているだろう。貴様は誰だ?」

「僕はルベルです。あの『ヘタレのルベル』です。覚えていらっしゃいますか?」


 ルベルの名前を聞いた途端、ランクルの力が抜けた。ランクルはそのままルベルの方へ向き直り、顔をまじまじと眺めた。


「あっ、お前は……ん?」


 ランクルが何か言おうとしたその時、後ろでマナが目を覚ました。


「おっ、ランクルじゃん、おはよー」


 マナはまだ眠いのか、力なく手を挙げて挨拶の声を上げた。


「あっ、そうそう。私たちょっとヘマやって今囚われの身なんだよ。ランクルって偉くなったんでしょ? 何とかしてくれない? 勇者選抜試験に出ないといけないから」


 思い出したように、顔の前で手を合わせてランクルにお願いする。


『プチン』


 ルベルには確かに何かが切れる音が聞こえた。ランクルの方を見たが表情は読み取れない。静寂の中、ランクルの身体がゆらりと動いた。ルベルはその動きにゾッとした。その動きにはあまりにも無駄がなかった。


「まずい。先輩っ、危ない!」


 ランクルの剣の矛先は、ゆっくりだが、確実にマナの方へ向かっていた。












 

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