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 エルトは庭に寝そべっていた。庭と言っても家の敷地が広大であるため一見しても庭とは思えない。広大な広場に少し小高い丘があり、丘の上には申し訳程度に日光を遮ることができるだけの木が一本生えている。エラルはその場所でのんびり考え事をするのが好きだった。


 兄のエラルにライカの面倒を押し付けられてひと月が経った。ライカは今日も稽古をしている。ライカの相手は面倒くさいため、サリュとラーカイルに任せている。二人はあれからしばらく謹慎していたが、謹慎していても体が訛るだけだという理由でエラルを説得して、ライカの稽古をさせている。もちろん監視付きで多少の不自由はあるが、二人にとってもじっとしたまま謹慎しておくよりはましだろう。


 魔族の世界は平和ではない。そのため魔族軍というものが組織されていて、第一から第八軍までの大隊とその下にそれぞれ数十の中隊と小隊がある。魔族軍は魔族領内の治安維持部隊だ。各部族間のいざこざや、小競り合いはしょちゅうで、それらを武力で以て鎮めるのが主な仕事である。今このときも第一から第十軍までほとんどが外に出払っている。そんな中、サリュの中隊が今動けないのは魔族軍としてはかなり痛い戦力ダウンとなる。組織とは信賞必罰で統制を引き締められる。何かしらの罰を与えなければ周りに示しがつかない。


 サリュは魔族軍の中隊長でラーカイルはその副長を務めている。通常であれば人間では到底太刀打ちできないはずの強さを持っている。だが、ホムの街ではサリュと同等の強さをもつワーズマースがいとも簡単に殺されてしまった。ライカは『候補者』であるため、人間ではなく魔族である。彼女が飛びぬけて強いのは理解できるが、領域騎士団にはまだ強い奴がいるということになる。つまり彼らは人間ではなく『候補者』に違いない。『候補者』は基本的には自らが魔族だとは知らない。そう教育されてきたからだ。だが、強硬派にとっては今『候補者』が作戦の障害になっている。なんとも皮肉な話だ。


 『候補者』は人間界からしたら貴族でもなく名前が売れている訳ではない。そんな彼らが人間界で成り上がって勇者候補となるための一番の近道が領域騎士団になることだったのだろう。領域騎士団は身辺調査等がないに違いない。そうなると今後の強硬派としての作戦の方向性を大きく変える必要がある。領域騎士団に『候補者』がいては魔族同士で削り合うことになるため、結界付近での活動は不毛なものとなってしまう。他に何か良い糸口がないものだろうか。エルトはライカの稽古の様子を眺めつつも頭の中は次の作戦のことでいっぱいになっていた。


 エルトがそんな考え事をしていたら、ライカたちがエルトの元にやってきた。


「どうした? 今日の稽古はもう終わったのか?」

「はいエルト様。今日はもう終わりのようです」


 ライカが不満そうに後ろを見ながら答える。ライカの後ろでサリュとラーカイルが倒れ込んでいた。


「ほう、もうこの二人を圧倒するようになったか」

「エルト様、違います。私は最初から二人より強いですよ」

「強がるなよ。最初は全然歯が立っていなかったではないか」

「あれは、私が自分の力を上手く使えていなかっただけです。こちらに来てまだ間もない頃でしたから」


 エルトはライカが生粋の負けず嫌いだとサリュたちから聞いていた。


「そうか。お前が強いことは僕にとっても望ましい」

「ありがとうございます。で、私はエルト様の元で何をすればいいのでしょうか? できれば『候補者』として人間の世界に戻りたいのですが」


 エルトはライカの処遇について考えてはいたが、結論は出ていなかった。強硬派として働いてもらえるのが一番助かるが、今はその出番がない。


「もうすぐ人間の世界で勇者選別試験が始まるはずです。できればそれに参加したいのですが」


 ライカの思わぬ言葉にエルトは身を乗り出した。


「なに! そんな試験があるのか?」

「はい、不定期に開催されるのでこの期を逃すと次はいつになるか分かりません。これを機に勇者となるべく参加したいと思っています」


 エルトには初耳だった。だが僥倖でもある。


「それはどこで行われるのだ?」

「もちろん王都です。国中から勇者選抜試験のために人が集まってきます」


 エルトはこれは絶好の機会だと思った。その試験のため、領域騎士団に紛れ込んだ『候補者』たちが一斉に王都に赴くだろう。となれば結界付近の警備が弱くなる。これを機に人間領へ攻め込むことができる。東の要所ヘイアンはいま結界の融通が利かない。北のホムの街は結界がない状態になっているがエラルの監視があるため迂闊には近づけない、となれば攻めるは西の要所デンジャの街となる。エルトは次の作戦を頭の中で立て始めた。


「エルト、さま? いかがしましたか?」

「いや、すまない。ライカ、お前は勇者選抜試験に出るがいい。エラル兄さんに話をつけておこう。元々は『候補者』だ。エラル兄さんも許してくれるだろう。北の街ホムには今結界がない。そこから人間領内に入っていけるはずだ」

「はい、ありがとうございます」

「お前の使命は勇者になることだ。そしてその障害となる他の『候補者』すべてを駆逐してやれ」

「私は人間たちにはもう未練はありません。私が勇者となった暁には、人間の世界をどうされるかはエルト様にお任せ致します。そもそも私の役割は勇者となって結界を支配することですから」


 そう言い残してライカはエルトの前を後にした。それを見届けた後、エルトはまだ倒れ込んだままの二人に声をかけた。


「おい! 起きろ。次の作戦が動き始める。忙しくなるからお前たちにも存分に働いてもらう」


 人間領をすべて魔族の領土とすべく占領する。そうしなければ魔族全体が、いや世界が滅んでしまう。世界を救わなければならない。エルトは強い使命感を胸に次の作戦の準備に取り掛かった。


「人間どもめ、この世界をめちゃくちゃにした罪は背負ってもらうぞ」




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