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 人間領の外側。結界で隔てられた外の世界。人間の世界ではそこは魔族領として知られている。が、そこに住んでいるのは一言で魔族といっても多種多様の種族であった。龍族、鬼族、獣人族etc……。皆それぞれがそれぞれの考えを尊重し、互いを傷つけず助け合うことで、世界の均衡を保ってきた。


 多種多様な種族が暮らしているということは、それぞれの種族で抱える問題も多種多様である。また、それぞれの種族間でのいざこざがないと言えば噓になる。その一番の問題となるのが資源、強いて言えば食糧である。各種族間での取り決めはあるものの、その食料の過不足の均衡を保とうとすると、どうしてもすべてにおいて平等とはいかなくなる。ある時はある種族が恵まれ、ある時はある種族が飢えに耐えなければならない。お互い助け合うと言っても、恵みの多い種族が飢える種族へ支援をすることが続けば、均衡を保つことが難しくなる。


 そんな各種族間の均衡を保つために不可欠な存在がいた。それが魔王である。魔王はその圧倒的な魔力の力を以てして、各種族間の均衡を保つのにうってつけであった。大きな反抗を考える兆しを見つけては潰し、見せしめとしての罰を与える。誰もこの人に逆らうことができない。そう思わせる魔王の存在はこの危うい世界には必須であった。


 もちろん魔王一人の力を以てしても、魔族全体から襲撃されてしまえばひとたまりもない。魔王が魔王たらしめるためるための一大勢力があった。それは鬼族である。鬼族は古来より魔王の側に仕え、その治世を支持してきた。個々の魔力と身体能力が平均的に高く、高い知性も備わっている。その鬼族が魔王の側に控えているからこそ、魔王の圧倒的な力を大きく底上げしていた。


 だが、長い年月をかけて少しずつ、ゆっくりとその均衡は崩れようとしていた。その兆候はいつだったか分からない。だがはっきりと分かるその兆しは、魔王の失踪であった。魔王はこの世界の魔力が枯渇しているのではないかと疑っていた。なぜか言われると明確に答えはないが、長く世界を見て来た者としての勘だったかも知れない。


 だが、確信はあった。確実に世界は瘦せ細っている。魔力が不足して土地が痩せ、各種族の力も全体的に落ちているように思える。その原因を突き止める必要があった。そして、このことは誰かに知られてはならないと思った。これが広まってしまえば各種族で抱える不安が爆発して、血を血で贖うための争いが起きてしまう。その連鎖を生ませてはいけないと思った魔王は一人で原因を突き止めるために動いた。


「しばらく留守にする。その間は頼んだ」


 と、側近の鬼族エラルに一言だけ残して魔王は玉座から消えた。そして数年間魔王は帰ってこなかった。


 当然、側近たちの中で魔王が不在であることが少しずつ広まり、大きな不安の塊となって魔族全体にのしかかるようになった。様々な憶測が飛び交う中、ある古参の鬼族の者がこう言った。


「人間じゃ、あの忌まわしき結界がこの地を蝕ませている。あの結界の維持には莫大な魔力が必要と聞いておる。それにも関わらず結界の領域は年々拡大しておる。あの結界がある限り我々の未来はないのじゃ」


 だが、その意見に反発する者もいた。


「だが、結界が維持できているということは、その魔力が足りているということ。彼らが自分の力で維持できているのであれば、それは違うのではないでしょうか」


 鬼族の古参はこう付け加えた。


「お前たちは大した魔力を持たぬ人間があの結界をどう維持しておるのか疑問ではないのか?」


 それを聞いた側近たちはざわめき始めた。


「それにしても、人間たちが領地を広げようとして我々の領地を奪っていることは事実」

「そうだ。そのせいでいくつもの魔族の村が焼かれた」

「魔王様の不在の原因はともかくとして、人間たちのその蛮行に対しては報いが必要だ」

「やつらの結界はかつてのように完璧ではない。その隙をついて人間たちに報復を」


 意見が一つの方向に向かおうとしていたのを制した者がいた。エラルであった。


「皆の者、落ち着いて下さい。確かに結界に関しては分からないことが多過ぎますが、憶測だけで話を進めては危険です。確かに結界には隙があるようです。だからと言って人間領に侵入しては魔王の意に背くことになります。罰もありましょう。ここは魔王様が戻って来るまで待ちましょう」

 

 それには一同が静まり返った。


 皆は感じていた。魔王は果たして帰ってくるのだろうか。いや、何かしらの不測の事態が理由で帰ってこれなくなったのではないかと。それならば、隠れて人間領に入ったところでそれを止める者などいないのではないかと。


 だが、それから間もなく魔王からの書簡が届いた。その書簡を届けたのは魔王の子飼いの烏であった。その烏は傷ついており、書簡を届けるとそのまま力尽きた。その書簡にはこう書いてあった。


『長きに渡り留守にしてすまない。だがようやく私は一つの結論を出せた。人間領を潰す。だが武力で攻めてはいけない。あの結界は力ずくで破ることはほぼ不可能だ。となれば方法はただ一つ。内部から崩してやればいい。人間たちには今『勇者』が不在だ。勇者とは結界を維持する権利を持った者だ。それがどのような存在かまでは分からぬが、その『勇者』になるべき者を育て、人間界に送り込め』


 かくして魔族の間で『人間領制圧作戦』が立案された。主な立案者はエラルであった。その概要はこうだ。


 まず、人間領で勇者となるべく送り込む者を『候補者』と呼ぶ。魔族でも幼いころは魔力が少ないため、結界に阻まれることはない。『候補者』は魔力の少ない種族と一緒に結界の隙をついて人間領に侵入する。そして人間界に馴染み、『候補者』を勇者へと成長させる。勇者に選ばれた者はその権利を行使して結界を支配する。決して結界を壊してはならない。結界の支配を確認できた時点で、魔族軍総力を動員して人間領を制圧する。


 これを機に魔族の中から多くの『候補者』が選定され、人間領内に送り込まれることになった。




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