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「何だ、騎士団員か。応援にでも来てくれたのか。おーい、大丈夫かー?」
「あいたたた。いきなり変なものを投げつけて……ん?」
その騎士団員がルベルを見て、動きを止める。ルベルはそれには構うことなく、失礼な言葉を投げかけた。
「なんだ、騎士団かと思ったらただのガキじゃないか。子供が騎士団の制服着て、こんなところで遊んじゃ駄目だぞ」
実際、その騎士団員は背が低く、とても大人には見えなかった。
「だ、だれが、子供じゃーい。よく見てみ。私はれっきとした大人の女だわ」
ルベルはそう主張する女の身体をじっと観察して、ある結論に達した。
「やっぱり子供じゃないか。はいはい、危ないから街に帰りましょうね。ちゃんと騎士団員が送ってあげるから」
「お、お前っ。失礼過ぎるぞ! お前こそ何者だっ? こんなところでうろうろして。危ないだろう。私が来なかったらお前は今ごろ狼共の餌食だったんだぞ」
「はいはい、そうですねー。君のおかげで助かりましたよ。で? 君、名前は? 何歳ですかー?」
「ぐぬぬぬぬ……どこまでも馬鹿にする気か。いいか、よく聞け! 私の名前はライカ。東の要所ヘイアンの領域騎士団最強の戦士とは私のことだ。どうだ、まいったか?」
ライカは自信満々に腰に手を当てている。ルベルにはまだ信じられなかったが、『ライカ』という名前には聞き覚えがあった。東の要所は暇でやることがない、というのは有名な話だ。だがそれは、『ライカ』という名の強い騎士がいるが故に暇なのだという噂もある。東のヘイアンの街から交代する騎士団員はいないから、本当のところがどうなのかを知る騎士団員はいない。だが、今ルベルの目の前には『ライカ』と名乗る少女、いや騎士団員がいる。背は低くて、童顔。髪は短い。前髪を上に一まとめにしているから、余計に幼く見える。
「そっか、お前があの噂の『ライカ』……」
「分かったらなよい。今であれば、額を地面擦り付けながら誤れば、許してやらんでもないぞ」
「ってなる訳ないだろう。こんな年端もいかないガキんちょが最強の騎士団員なんて、信じられるかっ」
「ぐぬっ、だーかーらー。ガキではないと言っているだろう」
「じゃあ、いくつだよ?」
「お、お前、初対面の女に年を聞くとは……絶対モテないだろ?」
「う、うるせー。騎士団員に男も女もあるかー。じゃあ、何か証拠を見せてみろよ。お前が強いっていう証拠を!」
「はあ、これだから凡人は。普通なら、私の前に立っただけで実力を見抜けぬようでは駄目なのだがな。仕方ないから見せてやる。私の力のほんの一端を」
ライカは人差し指を一本立てた。
「ふん、何をする気だ?」
「うるさいっ。静かに見ておけ」
すると、一瞬でライカの周囲の空気の『何か』が変わった。目には見えないが、何かがライカの指先に集まってきている。ルベルは直感的に魔力だと分かったが、自分のそれとはまったく違っていることに驚いた。まるで無駄がなく、そして静かだ。まるでライカの指差へ向かうために決められた道があるかのように、そこに魔力が吸い寄せられていた。そしてライカがおもむろに人差し指を下に向けた。
と同時に、『ギャンっ!』という鳴き声が聞こえて、周囲が静かになった。
「えっ? な、何をしたんだ?」
ルベルは何が起こったのかまったく分からなかった。魔法が発動されたのは間違いない。が、その発動過程も、どこにどう発動されたのかも分からなかった。
「お前には分からんか。未熟者め。お前がさっき空けた穴を覗いてみるがいい」
「あ、あな……、ま、まさか」
ルベルは急いて穴を覗きに走った。そこには、穴の底で跡形もなく潰されている魔物たちがいた。あの一瞬の動きだけで、五体もの魔物を同時に倒したのである。
「どうだ、分かったか? 私の実力が」
「ま、まじかよ……。すげぇな」
ライカは得意満面の笑みである。
「ライカ、お前ふざけ過ぎだぞ。魔物を倒すのに時間をかけ過ぎだ」
と、急に背の高い男が近づいて来た。その男は長い棒のような武器を持っている。ルベルは瞬時に警戒した。魔物はいないとはいえ、戦闘中と同じくらい耳には神経を集中させていた。それなのに、近づいていることにすら気が付かなかった。
「パ、パリストさん。いつの間に……」
「いつの間に、じゃねえよ。たったこれだけの魔物倒すのに時間をかけ過ぎだ、と言っているんだ」
「は、はい。いやでも、この男が邪魔をしてきて……」
ライカは、先程までの自信満々の態度から急にしおらしく、大人しい性格に変貌した。
「ん? お前は誰だ? 見たところ騎士団のようだが」
「は、はい。僕はルベルと言います。北のホムの街から来ました」
「ああ、そう言えば増援の要請を出してたな。で、お前一人で来たのか?」
「いえ、先輩と一緒に来たのですが、さっきから姿が見えなくて……」
「先輩……?」
ルベルは、ライカが出てくる前からマナの姿がないことを思い出した。てっきりライカによって何かをされてしまったのだと思っていたが、この二人の様子だと違うように思える。
「その先輩とやらは、魔物に殺されてしまったのか?」
「いえ、そんな筈はないのですが、どこに行ったのでしょうね。ははっ」
ルベルは急に殺気を感じ、後ろを振り返る。
「ん? 急にどうした?」
「いや……、あの倒れている魔物からただならぬ気配を感じて……。でも気のせいでした」
ルベルには分かってしまった。マナがどこにいるのかが。長い付き合いである。マナが今何を欲していて、何を求めているか。分かってしまったのである。だが、この二人がいる前でそれを明かすわけにはいかない。ルベルはどうしたらいいものか頭を働かせる。
「た、多分。先に街に行ってるんだと思いますよ。気にせず先を急ぎましょう」
「何だ? 冷たい先輩だな。まあ、そういうことならいい。ライカ、行くぞ。ルベルを街まで案内してやってくれ」
「は、はい。了解いたしました」
ライカは直立姿勢のまま、きれいに敬礼をする。まるで騎士団員のようだ。
「なんだ、ライカ。さっきから気持ち悪いぞ」
「う、うるさい。パリストさんはな、怒ったらすごく怖いんだ。だから怒らせないように大人しくしとかなないと、後で大変なんだよ。お前も、絶対にパリストさんを怒らせるなよ」
ライカが小声でルベルに忠告をする。ルベルはこの言葉を軽く捉えていたことに、後で後悔することになる。ルベルは取り敢えず、二人がマナに気づかないようにさっさとこの場を立ち去りたかった。
パリスト、ライカとルベルの三人はヘイアンの街に向かって歩き始める。魔物の毛の中に埋もれて、そのもふもふを満喫しているマナを残して。




