夕、壊れる
「要は、独占によるプレミア感なのよ」
その女の発言を聞いた私の心に浮かんだのは、何言ってんだこいつ、というものだった。
言うに事欠いて、なんだと。開き直りもいいところじゃないかと。
でも、全てをさらけ出した変態は動じなかった。
「だからね、尊いものを独占している、その特別感。プレミア感。これは一度味わったらもう手放せないわけよ」
「おおん・・・ゆーちゃん、ぶっちゃけたね」
「だってそうでしょ?あんないい男が、毎日ご飯作ってくれて、頑張って自分のために働いてえ、しかも店が休みの時は大会とか応援に来てくれたりするのよ?しかも頑張ったねって、いつもより豪華なご飯になったりするし。可能なら手元に置いておきたいじゃない!間違っても、イケメンなら誰でもいいみたいなブランド思考の女どもに渡したくないじゃない!」
「なによもう・・・吹っ切れすぎでしょ」
「だいたいね、女子高生なんてみんなアクセサリー感覚で男の子を連れてるじゃない!ちょっと勉強ができる彼とか、運動が得意な子とか、イケメンだったりとか。そんな外見的な価値しか見てないような女ばっかりじゃない。うちの部活の子達だってそうよ、連れてきたらみんな朝陽に夢中になってアプローチするのが目に見えてるわ。特にあの子達なんか部活しかやってなくて免疫ないんだから、あっさり夢中になって、そんなのに朝陽が引っかかったらどうするのよ!私嫌よ!」
「待って待って多い多い・・・」
もう、一度話し始めたらどんどん早口になるし・・・。というか、色々うちの部活の子達について言ってる割に、ほとんど夕も当てはまってるんじゃないだろうか・・・。ブーメランの名手かな?
「違うわよ、だって夕は私に優しいのよ!?」
なんだよこいつ・・・それはお前が姉だからだよ・・・。いや、鶴見くんは誰にでも優しそうではあるけど。それをいうと夕のアイデンテティが崩壊の危機に瀕しそうだったので、やめておく。
「愛が重すぎる・・・もうブラコンもそこまでいくと病気ね」
「ブラコンではない。それはない」
「この期に及んでまだいうか」
いやだ、今日の夕と話しているとどんどん自分がバカになっていく気がする。ていうか、夕ってこんな手がつけられない感じだっただろうか・・・。頑なにブラコンだって認めないし。なんの矜持よそれは。
「いい、雫。一つ言っておくけどね」
「・・・今度は何よ・・・」
やけに目が据わった夕は、行儀悪くも人差し指をこちらに向けながら、断言する。
「あなた、私が朝陽を隠してるっていうけど、あんたもこっち側になるんだかんね」
「・・・は?」
何言ってんだこいつ。私の口から、もう何回目かもわからないつぶやきが漏れる。
でも、実は、この女の言ったことは、悔しいかな、真実だったのだ。
「頑張る朝陽の姿をみんなに見せるべきとか言ってるけど。私にはわかる。今はお客さんがいない時間だから、多分朝日はあんたの相手を1時間くらいしてくれるはず。断言するわ、あんたはその1時間であっさり落とされて夢中になるし、ここで働く朝陽の姿をもうちょっと秘密にしておきたくなって、クラスのみんなに広めようなんて口が裂けても言えなくなる」
「・・・それは鶴見くん魔性過ぎない?てゆうかなんの予言よ」
「予言じゃないわ、経験よ」
「(実の弟に落とされたってカミングアウトはいいのか・・・)」
「だから!私たちは、あくまでここで働く朝陽を秘密にしたまま、学校での朝陽の地位を向上する、そういう方策を練るのが賢明なのよ」
やけにはっきり断言する夕の言葉を意識のどこか遠くで反芻しながら、今日ここに来たのはそういう話でしたっけ?という疑問が私の頭に浮かぶのだった。
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