体育祭(7)
「じゃ、俺はここらで先行くから、お前らは後は頑張れよ!」
・・・そう言って去っていく他クラスの知り合いの背を目で追いながら、俺たちも競技場に足を進める。
なんで帰り道で別れる友人のような感じで、他のクラスの選手と話しているかというと、俺たちが今最下位争いを繰り広げる状況だからだ。
ぶっちゃけ、俺たち3人、飯島、瀬下、向井は、ここまで結構歩いたり駄弁ったりしながら距離を稼いできた。
13キロ付近で完全に力を使い果たした俺たちは、鶴見姉からまさかの「いい仕事したわね」という最大級の賛辞(瀬下がいうにはそうらしい)をいただいた。
さらにヘトヘトで登りきった頂上では橘から「カッコよかったよ!後は時間に遅れないようにね!」というありがたい忠告をもらい、時間を聞いたところかなり余裕があったので、残りの2キロの下りは、給水でコップ一杯にもらった水を飲みながら、のんびり歩いてきたのだ。
そして、完走ラインまで残り10分となった頃、ようやく俺たちはトラックまで歩いてきたのだ。
「・・・なんかさあ、やりきった気がしちゃうとその後超疲れるな」
「「わかる」」
そうして一歩足を踏み入れた競技場。
もうトップが帰ってきて1時間近く経っているというのに、結構な人数が観客席やグラウンドに残っていて。
大きな拍手と、俺たちへ向けた労いの言葉が飛んでくる。
「飯島くーん!根性あるじゃん!」
「瀬下くんおつかれー!」
「向井君もナイスラン!」
「・・・歩くな!走れ!!ちょっと見直したらこれだ!!」
最後のは播磨だな。女子の声援に混ざってくんなよ、と思って声の方を見れば、先にゴールした野島と鶴見が、腰を下ろすこともせずゴール前で腕を組んでこっちに視線を送っている。
「・・・なあ、瀬下、向井。あの二人、もしかして1時間ああやって待ってたわけじゃねえよな」
「いやいやまさか。・・・ないよな?」
「わかんねえぞ・・・てゆうかさ、主役二人が待ってることに対する会場の空気がやばい」
「「「走るか」」」
こうなっては仕方ないと、重くなった足に鞭を入れてなんとか走り出す。
すると、拍手も声援も、一層大きくなった。
『さあ、制限時間ギリギリになりましたが!最後のポイント獲得者が帰ってきました!7組の飯島君、瀬下君、向井君!前半は大番狂わせを巻き起こし、波乱のレースを演出しました!下りの2キロを完全に歩いていたという報告が入っていますが、流石に空気に耐えかねたか!走ってゴールに向かいます!』
うわあ・・・実況ノリノリじゃねえか・・・まあ、歩いたのは事実だから文句は言えねえんだけど。
でも。
「・・・悪くねえな」
クラスでもはみ出しもので、それでも完全に不良になるほどの覚悟があるわけでもなく。宙ぶらりんだった自分たちが、こうやって学年全体に注目されながら、クラスに貢献するために何かをしている。
それを、認めて、受け入れてくれる仲間がいる。
照れ臭いが、悪くねえ、そう思っちまった。
瀬下も向井も同じ気持ちだったのか、照れたように笑いながら3人でゴールを目指す。
あと、少し。
50メートル。
30メートル。
『・・・今、3名のスプリント賞受賞者がゴールしました!制限時間まであと5分20秒というところでした。これで、7組はこの競技、出場全員が得点し、合計で48得点という荒稼ぎです!』
やっと、終わった。
実況がなんか言っているが、もう動ける気もしねえ。
ゴールしてすぐのタータンに、3人して寝転がっていると、野島と鶴見が笑いながら歩いてきた。
「・・・おう、二人とも、上位だったみてえだな。おめでとさん」
「ありがとな!お前らのおかげで優勝できたわ」
「・・・僕は完走するつもりなかったんだけどな・・・」
予想以上に体力を削られたのか、鶴見はどこかげっそりした表情を浮かべている。でも、俺たちにはなんだか共通の達成感みたいなものがあって。
とても満たされた気持ちになっていた俺に、鶴見が問いかける。
「どうだ、飯島。陸上、楽しかったか?」
・・・ああ、こいつは本当に陸上が好きなんだ。
「・・・悪くはなかった」
その問いかけに、素直に答えられない自分が情けない。まあ、ちゃんと意味は汲み取ってくれたみたいだが・・・。
「ははは、まあつまんなくなかったなら良かったよ。じゃ、移動するぞ」
「いやいや、もう一歩も動けねえよ」
「何言ってんのさ。お前らが帰ってくるの遅かったから、次女子の駅伝だろ?ここスタートで使うから、さっさとはけなきゃいけないんだよ」
「・・・マジで」
「まあ、歩いた罰だな。ほら、立った立った」
理不尽だ。そう思って、「お前ら何でそんな元気なんだ」と聞いたら、俺たちが競技場に入る直前までテントで横になって休んでいたらしい。
特に鶴見は爆睡だったようで、「どうせ飯島も瀬下もギリギリまで帰ってこない」といってアイマスク着用で寝ていたようだ。
・・・なんだこいつ。
「っははは!」
でも、なんだかこの五人に生まれた連帯感が心地よくて。久しぶりに、心から笑いあえた気がした。
ーーーーー
「・・・すまなかった!」
競技場からの退却後、俺たちは播磨から謝罪を受けた。どうやら、俺たちが「計算に入れていない」ことを指摘したことが気にかかっていたようだ。
まあ、そう思われても仕方ないし、もう今更責める気にはならないのだが。
「いいって」
「・・・しかし、そうは言っても、やはりあの発言はマズかったわけで」
「いいって言ってんじゃん」
なんで播磨の方が折れないのか。こっちがいいって言ってるんだからそれでいいじゃないか。
それに、何よりも。
「・・・今は1ポイント稼ぐ大変さわかってっから、文句はねえよ」
「・・・そうか」
そうだな、とどこかスッキリしたような笑顔を浮かべる播磨に、そういえば気になっていたことを聞いてみる。
「ちなみに、今点数どんな感じなん?俺らかなり稼いだから結構差を詰めたんじゃね」
その問いに対し返されたのは、バスケ女子の敗退と、3組のバレーボール優勝という知らせだった。
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