体育祭(4)
『ああっと!これは、8.2キロの給水地点!3組の瀬下くんがスパートをかけ、向井・飯島両名がついていきます!』
『・・・陸上部は、50メートルほど後方ですね、今、給水を取りましたが・・・』
『先頭集団を追って・・・いかない!行かないようです』
『流石に、オーバーペースだという認識でしょうね』
『ここで2グループの距離は開いていきます・・・間も無く100メートルになろうかと言うところ。これは、このまま2年3組がスプリント賞を独占するのでしょうか!?』
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3組の飯島・瀬下に向井がスプリント賞まであと数百メートルに迫っていると言うラジオの放送は、実行委員でありクラスの得点見積もりをしていた播磨にしても、予想を大きく覆すものだった。
一応、鶴見からプランは聞いていた。
それでも、あの3人が全力で飛ばして、中間地点をトップで抜ける、と言う計画は。同じ委員の崔だって半信半疑といった感じで、俺は正直なところ信じていなかった。
まともに話し合いも参加しない奴らが何を、と言う気持ちがあったことも事実だ。
ただ、ラジオを通して聞こえてくる熱狂は本物で。
俺は大きくため息をついて、本部にあるスクリーンに目を向ける。
ちょうど、先頭が中間地点から見えてきたところだった。
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『こちら中間地点です。ここではスプリント賞の計測があると言うこともあり、定点映像をライブで各モニターへ中継しています!・・・最初の選手が見えてきました。3組の瀬下選手です!ラジオ放送でもすでに説明されていましたが、クラスメイトと協力し、陸上の追走を振り切ってここまでハイペースで飛ばしてきました!ちらっちらっと、後ろを振り返りながら・・・クラスメイトの姿はまだ見えません。今、中間地点にトップで入りました』
鶴見が立てた計画は、ここまで完璧に機能している。まさか、俺がトップで中間地点を越えられるとは、正直自分のことなのにすごく驚いている。
8.2キロで、俺たちを追走するペースを陸上部が緩めたおかげで、俺たちは最後の1キロを少し余裕を持って走ることができた。
とはいえ、飯島と向井は残り数百メートルと言うところで、急激にペースが落ちて、離れてしまった。
もっとも、俺にもそんなに余裕があるわけじゃない。
10キロ以上、全力ではないとはいえ陸上部を上回るペースで走ったのだ。もう身体中がガタガタだ。
それでも、俺は空元気を振り絞って、沿道の声援に応えるように拳を突き上げる。
一層大きくなる声援が、飯島や向井にも届くように。
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『・・・ようやく見えました!三番手の飯島選手です。こちらも3組。最後の300メートルで大きくペースが落ちました。苦しみました。・・・それでも、陸上部とはまだ30メートルほどでしょうか、差をなんとか、なんとかキープして。今、中間ラインを超えました!貴重なポイントをクラスにもたらします』
・・・正直、やばかった。ほとんど、自分がどこを走ってるかもわからないくらいだった。先に行った瀬下や向井が中間地点を越えた時に生じたであろう、声援を頼りになんとか足を回した。
後ろを振り返ると、陸上部の奴らが涼しい顔で、俺のすぐ後ろで中間地点を越えたのがわかる。
それでも。なんとか、やり遂げた。
「・・・よっしゃ!」
思わず、小さくガッツポーズする。
『いやあ、飯島くんは最後に頑張りましたね。もうギリギリでしたが、なんとか踏ん張りました』
『これで3組は、見事中間地点でポイントを独占し、合計で6点を追加したことになりました』
『非常に難しい作戦だったとは思いますが、それを勇気を持って遂行した3人は素晴らしいレースでした。当然、あと10キロ近く走るわけですが・・・、まあトップから1時間以内でゴールすればいいわけですから、まず間違い無いでしょう』
中間地点に設置されたモニターやラジオから、陸上部の土屋先生のコメントが漏れ聞こえてくる。
勇気を持って、とか、こっぱずかしいが。それでも、悪い気はしなかった。
俺の隣を、陸上部の3人が勢いよく抜き去っていく。
ちらっと時計を見ると、鶴見の想定より早いペースで俺たちが走ったことがわかる。
・・・ここからは、あいつが最も勇気のある作戦を実行する番だ。
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『・・・現在13キロ地点まできました。トップを走っていた3組の選手たちは、すでに順位を下げ、四番手集団を形成していますが・・・これは、追走の集団にこのまま吸収されそうですね』
『ここで後続集団に動きです。3組の鶴見選手、野島選手が集団から抜け出し、いち早くクラスメイトに合流します・・・野島くんは陸上部の生徒ですが、この鶴見くんも、中学時代は有名な選手でした』
『なるほど、私たちの学年では、お姉さんの鶴見さんは有名ですが・・・弟さんも陸上をやっていたんですね』
『そうですね、中学時代は県大会で上位入賞した実績もあり、勧誘もしたのですが振られてしまいました』
『そうんな裏話があったんですねえ・・・ああっと、ここで合流ですが、瀬下選手らがもう一度ペースアップして鶴見選手・野島選手の前に出ます』
『僅かでも二人の負担を減らそうと言うことでしょう。特筆すべきは、鶴見くんのここまでのレースです。一度も、ただの一度も交代をせず、淡々と同じペースを維持して野島くんを引っ張ってきています』
『13キロを一人で、ですか・・・それはまた、すごいですね』
『だからこそ、瀬下くんも疲れているでしょうが、疲労を押して、と言うところでしょう』
『通常のマラソンレースではなかなか無い光景ですが、3組は非常に、チームとして一丸となって取り組んでいますね』
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「飯島!向井!いくぞ!」
俺たちにそう声をかけた瀬下が一気にペースを上げる。
後ろを見ると、鶴見と野島が7−8番手に上がって、俺たちのところまで合流してこようとしていた。あいつらを牽引しようと言うのだろう。
ただ、瀬下も疲れているのだろう。鶴見の速いペースに合わせるのはキツイらしく、すぐさま向井に先頭を交代し、隊列から離れていく。
向井が必死にペースを維持するのに合わせながら、隊列に追いついた鶴見を見る。
遠目には、涼しい顔で、まっすぐ前だけを見て走っているように見えたのに。
発汗がすごく、呼吸も浅い。
それもそうだ。こいつのプラン通りなら、こいつは野島をずっと引っ張ってきたのだ。辛いはずだ。
だったら。俺たちにできることなんて、これくらいだから。
向井の後を受けて先頭に立った俺は、僅かな残りの力を出し切るように、ペースを上げる。
・・・当然、そんなものは一瞬で使い果たしてしまうのだが。10メートル、いや、5メートルでもいいから。
ここまで立った一人で走ってきた鶴見の力になるなら。
でも、力の限界はすぐにやってきて。
「・・・ありがとな、飯島。一息つけたよ」
「ナイスラン!」
道を譲る俺の耳に、鶴見と野島の労いの言葉が響いた。
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