表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/38

体育祭(4)

『ああっと!これは、8.2キロの給水地点!3組の瀬下くんがスパートをかけ、向井・飯島両名がついていきます!』


『・・・陸上部は、50メートルほど後方ですね、今、給水を取りましたが・・・』


『先頭集団を追って・・・いかない!行かないようです』


『流石に、オーバーペースだという認識でしょうね』


『ここで2グループの距離は開いていきます・・・間も無く100メートルになろうかと言うところ。これは、このまま2年3組がスプリント賞を独占するのでしょうか!?』




ーーーーー




3組の飯島・瀬下に向井がスプリント賞まであと数百メートルに迫っていると言うラジオの放送は、実行委員でありクラスの得点見積もりをしていた播磨にしても、予想を大きく覆すものだった。


一応、鶴見からプランは聞いていた。


それでも、あの3人が全力で飛ばして、中間地点をトップで抜ける、と言う計画は。同じ委員の崔だって半信半疑といった感じで、俺は正直なところ信じていなかった。


まともに話し合いも参加しない奴らが何を、と言う気持ちがあったことも事実だ。


ただ、ラジオを通して聞こえてくる熱狂は本物で。


俺は大きくため息をついて、本部にあるスクリーンに目を向ける。


ちょうど、先頭が中間地点から見えてきたところだった。





ーーーーー





『こちら中間地点です。ここではスプリント賞の計測があると言うこともあり、定点映像をライブで各モニターへ中継しています!・・・最初の選手が見えてきました。3組の瀬下選手です!ラジオ放送でもすでに説明されていましたが、クラスメイトと協力し、陸上の追走を振り切ってここまでハイペースで飛ばしてきました!ちらっちらっと、後ろを振り返りながら・・・クラスメイトの姿はまだ見えません。今、中間地点にトップで入りました』


鶴見が立てた計画は、ここまで完璧に機能している。まさか、俺がトップで中間地点を越えられるとは、正直自分のことなのにすごく驚いている。


8.2キロで、俺たちを追走するペースを陸上部が緩めたおかげで、俺たちは最後の1キロを少し余裕を持って走ることができた。


とはいえ、飯島と向井は残り数百メートルと言うところで、急激にペースが落ちて、離れてしまった。


もっとも、俺にもそんなに余裕があるわけじゃない。


10キロ以上、全力ではないとはいえ陸上部を上回るペースで走ったのだ。もう身体中がガタガタだ。


それでも、俺は空元気を振り絞って、沿道の声援に応えるように拳を突き上げる。


一層大きくなる声援が、飯島や向井にも届くように。




ーーーーー




『・・・ようやく見えました!三番手の飯島選手です。こちらも3組。最後の300メートルで大きくペースが落ちました。苦しみました。・・・それでも、陸上部とはまだ30メートルほどでしょうか、差をなんとか、なんとかキープして。今、中間ラインを超えました!貴重なポイントをクラスにもたらします』


・・・正直、やばかった。ほとんど、自分がどこを走ってるかもわからないくらいだった。先に行った瀬下や向井が中間地点を越えた時に生じたであろう、声援を頼りになんとか足を回した。


後ろを振り返ると、陸上部の奴らが涼しい顔で、俺のすぐ後ろで中間地点を越えたのがわかる。


それでも。なんとか、やり遂げた。


「・・・よっしゃ!」


思わず、小さくガッツポーズする。


『いやあ、飯島くんは最後に頑張りましたね。もうギリギリでしたが、なんとか踏ん張りました』


『これで3組は、見事中間地点でポイントを独占し、合計で6点を追加したことになりました』


『非常に難しい作戦だったとは思いますが、それを勇気を持って遂行した3人は素晴らしいレースでした。当然、あと10キロ近く走るわけですが・・・、まあトップから1時間以内でゴールすればいいわけですから、まず間違い無いでしょう』


中間地点に設置されたモニターやラジオから、陸上部の土屋先生のコメントが漏れ聞こえてくる。


勇気を持って、とか、こっぱずかしいが。それでも、悪い気はしなかった。


俺の隣を、陸上部の3人が勢いよく抜き去っていく。


ちらっと時計を見ると、鶴見の想定より早いペースで俺たちが走ったことがわかる。


・・・ここからは、あいつが最も勇気のある作戦を実行する番だ。




ーーーーー




『・・・現在13キロ地点まできました。トップを走っていた3組の選手たちは、すでに順位を下げ、四番手集団を形成していますが・・・これは、追走の集団にこのまま吸収されそうですね』


『ここで後続集団に動きです。3組の鶴見選手、野島選手が集団から抜け出し、いち早くクラスメイトに合流します・・・野島くんは陸上部の生徒ですが、この鶴見くんも、中学時代は有名な選手でした』


『なるほど、私たちの学年では、お姉さんの鶴見さんは有名ですが・・・弟さんも陸上をやっていたんですね』

『そうですね、中学時代は県大会で上位入賞した実績もあり、勧誘もしたのですが振られてしまいました』


『そうんな裏話があったんですねえ・・・ああっと、ここで合流ですが、瀬下選手らがもう一度ペースアップして鶴見選手・野島選手の前に出ます』


『僅かでも二人の負担を減らそうと言うことでしょう。特筆すべきは、鶴見くんのここまでのレースです。一度も、ただの一度も交代をせず、淡々と同じペースを維持して野島くんを引っ張ってきています』


『13キロを一人で、ですか・・・それはまた、すごいですね』


『だからこそ、瀬下くんも疲れているでしょうが、疲労を押して、と言うところでしょう』


『通常のマラソンレースではなかなか無い光景ですが、3組は非常に、チームとして一丸となって取り組んでいますね』





ーーーーー





「飯島!向井!いくぞ!」


俺たちにそう声をかけた瀬下が一気にペースを上げる。


後ろを見ると、鶴見と野島が7−8番手に上がって、俺たちのところまで合流してこようとしていた。あいつらを牽引しようと言うのだろう。


ただ、瀬下も疲れているのだろう。鶴見の速いペースに合わせるのはキツイらしく、すぐさま向井に先頭を交代し、隊列から離れていく。


向井が必死にペースを維持するのに合わせながら、隊列に追いついた鶴見を見る。


遠目には、涼しい顔で、まっすぐ前だけを見て走っているように見えたのに。


発汗がすごく、呼吸も浅い。


それもそうだ。こいつのプラン通りなら、こいつは野島をずっと引っ張ってきたのだ。辛いはずだ。


だったら。俺たちにできることなんて、これくらいだから。


向井の後を受けて先頭に立った俺は、僅かな残りの力を出し切るように、ペースを上げる。


・・・当然、そんなものは一瞬で使い果たしてしまうのだが。10メートル、いや、5メートルでもいいから。


ここまで立った一人で走ってきた鶴見の力になるなら。


でも、力の限界はすぐにやってきて。


「・・・ありがとな、飯島。一息つけたよ」


「ナイスラン!」


道を譲る俺の耳に、鶴見と野島の労いの言葉が響いた。

お読みいただきありがとうございます。励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ