体育祭(1)
ついにやってきた体育祭。今日は、卓球・水泳のトーナメントと、バレー・バスケの予選。あたしが参加するバスケは、抽選の結果、ノーシードに入ってしまったので、翌日のベスト4まで残るには二試合勝たないといけない。
午前に6組とのベスト8進出をかけた第一試合を戦い、午後は1組との第二試合。どちらの組にもバスケ部はいないが、中学時代はちょっとやっていたとか、昼休みに少し遊ぶくらいの運動部がほとんど選ばれている。
対して、あたしたち7組は、あたし以外はそこまで球技をやっていないメンバーも揃っているため、初日から苦戦が予想された。
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「崔さん、お願い!」
一試合目、後半開始1分。速攻気味にソフトボール部の新原さんから出されたパスを、コート中盤で受けたあたしは、勢いに乗ってレイアップを決める。
「15ー11・・・これで2本差!」
今回は体育祭ということで、5分ずつの前後半制。普段と違う時間配分が必要になるのも戸惑うところだ。でも、浮き足立っていたうちのチームも、徐々に連携が取れてきて、少しずつ追いついてきている。
「みんな、急いで戻って!」
新原さんが声を出す。彼女はあたしと他のメンバーの橋渡しとしてよく動いてくれている。
「新原さん、4人でゾーン作って!速攻は潰すから!」
まだ後半始まって1分少々、けれど、普段バスケをしない他の子達はすでに疲労が蓄積してきている。ここは、あたしが再開後のボールをチェックに入り、出来るだけ攻撃を遅らせる。
それでも、稼げてせいぜい数秒。パスを回されて、自陣に長いパスが入る。
「・・・ピピーッ!」
笛の音に、自陣に戻る方に傾いていた意識を戻すと、文香と相手の選手が交錯して倒れていた。
「文香、大丈夫!?」
「・・・大丈夫です!あ、でも立ち上がるのに手貸してください」
立ち上がりながら、文香が小さな声でプランを伝えてくる。
「・・・あっちのファウルですから。速攻行きましょう」
「あんた、倒されたばっかりなのに落ち着いてるわね」
「・・・私は基本的には足手まといですから。できることをやります」
「ずいぶん助かってるわよ。ありがと」
「・・・じゃあ再開しますね!新原さん!!」
相手ゴールに向かって走り出したあたしにパスが行くと思っていたようで、相手チームは一瞬反応が遅れる。その隙に、新原さんが近くで受けてドリブルを開始する。
うちのチームは初心者も多い。だから、その分あたしがマークされる。
それでも、うちのメンバーは、みんな自分にできることを必死にやっている。
相手をうまく誘ってファウルをもぎ取って、素早い再開で不意をついた文香も。
その意図を察して、ドリブルで反対サイドに切り込んだ新原さんも。
他の二人だって、文香と新原さんの速攻が潰された時に備えて、中盤で守備的な位置に待機している。
みんなが放課後、いくつかパターンの練習をしていたのを知ってる。
自分の部活のチームじゃなくっても。
やっぱり、みんなで連携できたプレーって、楽しい。
「新原さん、こっち!」
ゴール前まで切り込んだ新原さんに、慌てて3人がマークについた間隙に、あたしは逆サイドに顔を出してパスを受ける。
一番好きな角度。一番好きな距離。これは、外れない。
「ナイッシュー!」
「涼子ちゃん、流石です!」
チームメイトの声にこたえつつ、浮き立つ気持ちを守備に向ける。
「15−14!先ずはしっかり一本止めよう!」
ここを止めれば、1分残してこっちのターン。十分逆転できる。
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「涼子さん、お疲れ様。初勝利だね、キャプテン?」
「ん、さんきゅ。応援来てくれたんだ」
「当然」
結局、15ー17で逆転勝ちしたあたしたちは、午後の二回戦に駒を進めた。
クールダウンをするあたしたちの元に、冷やした飲み物とゼリー菓子を持ってきてくれたのは、朝陽くんだ。
「新原さんもお疲れ様。初勝利おめでとう」
「あー、鶴見くんじゃん!ありがとー!どう?私の活躍!」
「かっこよかったよ、ムードメーカって感じで、チームを盛り上げてて」
「おうおう、やっぱちゃんと見てくれてるねー、さすがモテる男は違うねー!」
新原さんテンション高いなあ・・・。
でも、周りを見ると、文香も、梶野さんも比島さんも興奮しているのか、かなり積極的に朝陽くんと話している。あ、このゼリー、ツインズの商品を持ってきてくれたんだ・・・。
ふと、こっちに気づいたのか、朝陽くんが私のそばに寄ってきた。
「みんな楽しそうだね」
「うん・・・本当に。みんなあんまりバスケやったことないはずなんだけど、頑張ってるよ」
「涼子さんも、頑張ってたね」
「・・・結構外しちゃったけどね」
「まあ、それはしょうがないでしょ。みんなに見せ場を作ったり、キャプテンとしてって、方さ」
「・・・見てたんだ」
「見せ場の時も、いつでもフォローできる位置に準備してたし、流石だね」
「やめて照れる」
・・・なんだかなあ。朝陽くん、全部見てくれてるんだもん。
中学時代の経験から、やっぱり、みんなにバスケって楽しいって思って欲しくって。
そんな気持ちからでたプレーを、言葉にされると、嬉しいけど、ちょっとむずかゆい。
「午後もそのキャプテンムーブで行くの?」
「キャプテンムーブって・・・まあ、でもそうね」
「そっか。無理しないでね」
「・・・冷たっ」
ちょっと、いきなり冷やしタオルを顔に当てないでよ。気持ちいいけどさ・・・。
ていうか、ちょっと距離近くない?
嬉しいけど。いや、汗臭いかもだからちょっと恥ずかしいのはそうだけど。
「・・・ねえ、夕にうまく説明できなかったでしょ」
「なんのことだか」
「露骨にサービスしてくるし」
「・・・ごめん」
「いや何そのちょっと落ち込んだ顔。可愛いんだけど」
あー、わかった。朝陽くんって、距離が近づくとこうやって甘えてきたりして。
・・・多分、美織さんもこれを許しちゃったんだろうなあ。
私も許すけども。
でもさあ。
「朝陽くん、そういうとこだよ」
・・・午後の試合終わったら、ちょっとお説教だね。
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