体育祭戦略会議
会議は踊る。それは、議事が進行しない様子を指す言葉だ。それでは、2年7組の、二週間後に迫った体育祭に向けた会議が進まない理由は何か。ひとえに、男女の議長たる実行委員、播磨勉と崔涼子が連携できていないことにある。
ーーーーー
「良いか!我がクラスの目標は、当然学年総合優勝!10クラスの頂点に立つことだ!」
「良いぞ委員長!わかってんじゃねーか!」
「やってやろうぜ、こっちにはバスケ部のエースと長距離のエースがいるんだ、いけるいける!」
そんな、ノリノリの播磨と、あたしと涼子の力をアテにして騒ぐ男子。全くもって頭が痛い。
あたしはそれどころじゃなかった。先週土曜日の事故みたいな告白を思い出すと恥ずかし過ぎて。でも、朝陽くんの状況を雫や夕に伝えた方がいいような気もして、その方法がわからなくて。端的にいって、いっぱいいっぱいだった。もはや、会議の収拾をつけるどころでなく、ただ教壇で立ち尽くすだけの置物と化していた。
「・・・だが、そうなると、問題は点数をどう稼ぐか、だな」
播磨つぶやきはもっともだ。うちの体育祭は、ちょっと特殊で、各種スポーツで競い、その合計点を元に順位を決める。
今年の競技は、女子バスケ、男子バレーボール、男女水泳、男女長距離陸上種目、男女卓球、の5種目。もちろん、参加しない生徒もいるし、そういう生徒は救護班などに回る。日程的に掛け持ちができないこともないが、割と地区でも有名な強豪校なので、掛け持ちして上位を取れるほど甘いわけでもない。
トーナメント形式の卓球は、参加人数が少ないこともありシングルスのみ、優勝で男女10点、準優勝6点、ベスト4で3点。
陸上は、男子がハーフマラソンで、総合1位が30点、2位が24点、3位が18点、4位14点、5位12点、6位10点、7位8点、8位6点。中間地点での上位3人は、3点、2点、1点をそれぞれクラスに持ち帰る。女子は駅伝で、総合の点数は同じだが、計6区間の区間賞がそれぞれ1点になる。
水泳は、メドレーリレーと自由形リレーの男女計4種目。クラス対抗なので最初から決勝でポイントを得られ、陸上の半分に設定されている。
女子バスケと男子バレーボールは、チーム戦ということもあり、上位4チーム、卓球の2倍の点数が与えられることになっている。
つまり、個人の戦績で上位に行けるのは男子ハーフマラソンと男女卓球だけ。これらの競技ではうまくいけば表彰台独占も理論上可能ではあるのだが、他の競技ではチームとしての総合力を生かした布陣にしないといけない。
頭が痛いところだった。
そんななか、伏見が手を挙げた。
「伏見、なんか意見があるならどうぞ」
「うお、崔さん機嫌わるっ!いや、あのさ。正直なところ、うちも各部活のメンバーがいるわけだから、そいつらを中心にドラフトしてきゃあいいと思うんだよね。バスケなら、崔さんがメンバー選べばいいし、陸上なら鶴見姉弟もいるし、橘やハードルの野島もいるし」
「まあ、そうね・・・。播磨、それでいい?」
「ん?構わんぞ。その方がいいだろ、むしろ。そうだな、そうやってチームを選んで、ドラフトして、それで星取りを計算しよう」
ーーーーー
そんな旗振りで始まった、体育祭会議。出来上がったチームを見てみれば、そこそこ戦えそうな気もしてくる。
初日は、男女卓球と、男女水泳に、バスケ・バレーボールの予選。
二日目は、男子の陸上が朝一でスタートし、そのゴール後、女子の駅伝。その裏でバスケ・バレーボールの準決勝以上を行うというスケジュールだ。
まず卓球。これは、なぜか演劇部の伏見が大将格となった。といっても、まあムードメーカーだし、いいのかもしれない。何より、伏見以外は男女合わせて5人全員が卓球経験者という布陣となった。
ただ、女子選手の宮下さん曰く、
「美術部と卓球部はどこにでもいるし、どこにもいない」
らしいので、どこのクラスもこんな感じかもしれない。それでも、宮下さんは中学時代に市民大会でベスト4までいった経験があるらしく、「自分の最低限として3点は期待してくれていい」とのこと。
ライバルとなるだろう、2年3組には現役の部員がいるらしく、男女ともに上位の可能性がたかそうだ。
播磨くんの予想では、20−3。
水泳は、うちにも、3組にも有力選手はいない。もう身体能力の勝負という世界になるが、大きく点差はつかないだろう。
つまり、初日は卓球で大きく離される分、二日目で巻き返さないといけない。
バレーボール男子は、結構いい勝負ができるとの予想で、お互いのクラスがベスト4かベスト8くらいとの予想。
問題は、その後だ。
まずバスケ。あたしは確かにバスケ部のレギュラーだけど、3組には近くの公立中から上がってきたメンバーが3人いて、中学3年時には県ベスト4の原動力となった選手たちだ。普段の練習から、すごく上手なのがわかる。
私だって、個人技では勝っていると思うが、現役バスケ部3人と、こっちが1人ではちょっと厳しいかもしれない。うちのクラスがベスト4で、3組が優勝だとすると、リードは31点まで広がる。
「・・・あー、この星取りだと、陸上を残して31点ビハインド。鶴見さん、行けるか?」
流石に不安になったのか、計算していた手を止めた播磨が夕に尋ねる。
「うーん、どうかしら。まあ、女子の駅伝は私たちが必ず優勝する。雫もいるし、区間賞も2点分確保したようなもんよ」
「すごい自信だな」
「まあ、ゆーちゃんは速いからねえ・・・」
「私だけじゃないわ、雫、あなたもよ。数字は嘘をつかないもの。あなた、いっつも駅伝アンカーで走るけど、抜かれたことないじゃない」
「・・・まあ、私がゆーちゃんのリードを食いつぶすわけにはいかないからね・・・」
「だから、私が5区で走って区間賞、トップで雫に渡せば、優勝は決まりね」
「やばい、ゆーちゃんのスパルタな感じがまた出ちゃってる。。。」
雫が泣きそうな顔をしているけど、まあ、実際夕の発言は心強い。そこまでにおそらく大きくリードされている以上、何としても一勝は欲しいのだ。
それは播磨も同じだったようで、しばらく迷った挙句。
「・・・よし、わかった。多少希望的観測かもしれんが、32点を取れると計算しよう。3組はあいにく、ほとんど他の競技に回るだろうから、そこまで速い選手は残っていない。ここで20点は詰めたいところだな」
「じゃあ、最後の男子のハーフマラソンだけど」
そうなのだ。ここがなかなかに不安なのだ。陸上部の中距離ハードルで県大会まで出た、野島くん。中学時代に県で上位入賞経験のある朝陽くん。そして。なぜか、二人が話し合って選出したのは、クラスの不良児の3人、飯島、向井、瀬下だったのだ。
・・・あいつら、たまに隠れてタバコを吸っているという噂もある。そもそも走れるの?
お読みいただきありがとうございます。励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。




