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それぞれの一歩(鶴見朝陽)

テスト打ち上げのお泊まり会が終わり。皆が寝静まった頃、僕はリビングで片付けをしていた。


昔から、イベントごとを誰よりも楽しむのは夕の良いところだけど、片付けをしないで寝てしまうのもいつものことだ。


でも、今晩は考えることが沢山あったからちょうど良い。


夕との関係のこと、家族のこと。


自分の進路のこと。


雫さんや、涼子さんとのこと。


さらには、自分に降りかかってきたと言うカンニング疑惑のこと。


恭平が寝る前に教えてくれたことだ。彼はもちろんそんなことを信じてはいないし、体育祭で見返してやろう!と息巻いていた。


僕は本当に周囲に恵まれたと思う。そして、僕がその周囲の人間の素晴らしさに値しない人間だと言うことも、よくわかっている。


ただ、どうしても。考えがまとまらない時はどうしても、自分の心の中をさらけ出したくなる。


時刻は深夜2時をまわっていたが、僕は手元のスマートフォンをタップした。




ーーーーー




『・・・なに、朝陽。こんな深夜に』


「悪い、美織。ちょっと相談したいことがあって」


電話した相手は、伊原美織。同じ天志高校の2年生で、3組にいる女子生徒だ。中学時代から仲が良く、僕の数少ない友人の一人だ。


ただ、色々と事情があって、夕を取り巻く仲間たちには紹介しそびれている、ある意味では秘密の友人である。


中学生の頃、夕との才能の差に悩んで陸上をやめるか悩んでいた時も、親が倒れた時も、今の生き方を決めた時も。いつだって彼女のアドバイスを受けて、前に進んできた。


深夜だったのはわかっているが、思わず電話をかけていた。


『・・・それ、今日じゃなきゃダメ?私も正直寝たいんだけど』


「・・・」


『・・・』


「・・・」


『・・・とりあえず、話してみなよ。それから考えるから』


長く続く沈黙に根負けしたのか、美織はため息とともに先を促した。


「わるい」


『良いわよ、いつものことでしょ。明日休みだし、付き合ってあげる』


「恩に着るよ」


『一つ貸しにしとくわ。で、なに?お姉さんのこと?それとも進路のこと?』


「夕のことは大丈夫。結構吹っ切れたし、うまくやれてるよ。美織のおかげだ」


『そ。なら良いわ。じゃあ、進路のことかしら。流石に、あんたの恋の相談には乗ってあげられないわよ』


「・・・ああ、それもある、かな」


『煮え切らないわね。まあ時間はあるから、まずは話してみなさいな』


彼女に背中を押されるようにして、自分の進路について考えていることを話し始める。


自分はこの喫茶店ツインズを守っていきたいと言うこと。でも、それには実力も経験も足りないと言うこと。そのための経験を積み、見識を高めるため、アメリカの大学・大学院でスモールビジネスを学びたいと考えていること。


自分の中ではまだ整理ができていないと思ったが、声に出してみると、意外とすんなりと言葉が出てきた。


『・・・そう、決めたんだ。あんた、去年からそんなこと言ってたもんね。』


「ああ」


『それで、どの辺の大学に行くの?参考までに』


「まだ決めきれてないけど、西海岸の州立大を考えてる。アイビーも魅力的だけど、やっぱり、スモールビジネスを学ぶなら、西海岸、かなと」


『・・・そう。それで、今年からやけに勉強頑張ってるのね。まあ中学時代の指定席に戻っただけとも言うかしら』


「美織が席を温めてくれてたからな」


『深夜に叩き起こして喧嘩を売るとはいい度胸ね』


「ははは、わるい」


そうなのだ。美織は、頭が良い。中学時代も、僕が少し勉強を教えただけで学年上位に名を連ねていた。高校に入ってからは、部活はやらず勉強に集中しているようで、これまで2回のテストも学年2位をとっていた。


『・・・それで?』


そう。彼女は頭が良い。そして、その察しの良さは、僕の相手をするときには一層研ぎすまされる。だから、僕の言いよどんでいるところなど、すぐに当てられてしまう。


『留学のこと、あなたのお姉さんには話したの?』


まだ、話していない。あれだけ家族のことを溺愛している彼女のことだ。心配するだろうし、なにも父親が大変な時に行かなくても、と言う気持ちもあるだろう。何より、彼女が弟離れしようとしている今のこの時期に打ち明けるのは、まだ早いのではないかと考えていた。


「・・・まだだ。僕の方も、まだ試験も受けていない状態だし。決まったら、

話すよ」


そんな言葉に隠した本音は、それでもやはり、彼女にはしっかりと伝わってしまって。次の瞬間には、声色をはっきりと固くした彼女は、明確な怒りを露わにしていた。


『朝陽さ、私に甘えてくれんのは嬉しいし、私がそうしてって言ったのもあるけどさ。今の朝陽は、ちょっとカッコ悪いかな』




それでも、彼女はどこまでも僕のことを思いやってくれて。言葉を選んで、向き合おうとしてくれている。



『朝陽さ、もうちょい自分のお姉さんのこと信用しなよ。姉弟だもん、話せばわかってくれる。わかってくれるまで、話そうよ。私でよかったら、いつでも相談に乗るから』



・・・ああ、ありがたい。彼女はいつだって、勇気をくれる。



『あ、でも恋愛相談はなしね。惚れた弱みってものにも、限度があるんだから』

お読みいただきありがとうございます。


新章ということで、ちょっと短いですが、新しいキャラクターを出してみました。この章のメインになってくれると思います。


励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。

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