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なしくずしのお泊まり会(夕と雫)

結局、泊まることになって。お風呂には二人ずつしか入れないので、順番に入って、その順で鶴見家のリビングに移動していくことになった。


「じゃあ、雫、まず私たちから入りましょうか」


「そうだね、ゆーちゃん。涼子ちゃんと文香ちゃんはもうちょっとここでのんびりしててね」


先に断ってお風呂へ向かう。やっぱり、ゆーちゃんはお父さんのことが心配なのか、少し静かだ。特に会話もないまま、お互い服を脱ぎ、交代で体を流して湯船に浸かる。


一般家庭にしてはちょっと広めのお風呂で、高校生二人が入っても、ぎゅうぎゅうというほどではない。


「・・・お父さんがね、お風呂好きなの。だから家を建てる時、結構こだわったって聞いたわ」


「そうなんだ。お父さん、良くなってまたお風呂楽しめるといいね」


「・・・そうね」


以前は、もう諦めがついたっていっていたけど、きっとそんなことはなくって。私の見え透いた慰めにも、小さく微笑んでくれた。


「ねえ雫。私ね、家族のことが大好きなの。いっつも、みんな優しくて、私たちを守ってくれて」


「うん、わかるよ」


「でも、時々、不安になるわ。いつか、その形は変わってしまうから。お父さんの病気もそうだし、そうじゃなくっても、朝陽か私が結婚したら、新しい家族が増えるっていう点で、もう今の家族の形じゃなくなるんだから」


「・・・そう、だね」


どこか思いつめたような表情を見せたゆーちゃんは、それでも、明るくいった。


「だから、私、強くなりたい。私はこういう人間だっていう、柱が欲しい。家族のことは好きだけど、そこに寄りかかってばっかりじゃなくて、自分だけの芯を持ちたいと思うの」


それに、と彼女は続ける。


「ほら、私、朝陽のこと大好きじゃない?」


「・・・まあブラコンだしね」


「やっぱり、ずっとあいつのこと見てるから。わかるんだ、あいつがたまに夜に一人で泣いてるの」


「そう、なの・・・?」


「お父さんがいなくなって、自分が支えなきゃって。そう思って頑張ってるからね、辛くなることもあるんだと思う」


「・・・励ましてあげればいいのに」


「でも私たちの為に男の子が覚悟を決めてるのに、できないよ。見て見ぬ振りするくらいしか」


「・・・ゆーちゃんと、鶴見くんって、やっぱり、似てるね。お互いのことを思い合ってて、気遣いあってて。でも二人ともすごく不器用」


「そうかもね。でも私にはやり方がそれしかわからないから。朝陽に寄りかからなくてもいいように。もう大丈夫だって、朝陽に安心してもらえるように。私頑張るわ」




そう語る彼女の目は少し潤んでいて。父親への心配を隠しながらも、どこまでも弟のことを案じるその姿は、これまでに見たことがないくらい、綺麗だった。




「ごめんね、湿っぽくしちゃって・・・まあでも雫、まずは手始めに、今年の陸上選手権は頑張るわよ!」


それまでの重い空気を吹き飛ばすような、そんな日常の宣言。脈絡なんてなくって笑ってしまうけど。きっとそれは、彼女が自分の心に整理をつけるために必要だったのだろう。こういう時は、誰かが近くにいるっていうことだけで、意外と力になるものだ。


私は、それをしてあげるくらいには、彼女にお世話になっている。


「・・・でもさ、ゆーちゃん。まずは弟離れからじゃない?」


「はうっ・・・」


「今のままのべったり感じゃあ、いくらなんでも鶴見くん安心できないと思うよ?」


「・・・そんなことないもん」


「やっぱりここは、鶴見くんには、次の大会は私の応援で我慢してもらうしかないね!」


「なんでそうなるのよ!」


「だって弟離れしなきゃでしょ?弟の応援がなくても全国出れるくらいじゃないと」


「・・・雫なんて地区大会敗退のくせに」


「あ!いった!いっちゃいけないやつ言った!私気にしてるのに!」


「ふん、朝陽の前で無様に敗退すればいいのよ。そしたら県大会からは私のことだけ応援できるんだから」


「今年は距離変えたから大丈夫だし!・・・絶対県大会までいってやる」


「どうだか」


「なんだとコノ」


・・・さっきまでの雰囲気はどこかへ行き、私たちのいつもの感じが戻ってくる。


そのあとは、あえてお父さんの話はせずに、部活の話で盛り上がった。


ゆーちゃんは正直なところ陸上ガチ勢もいいところなので、先輩たちにも結構厳しいことを言ったりする。


「地区大会といえば。今年こそはキャプテンの服部先輩と、副キャプテンの海老沢先輩。あの二人には県大会までは行ってもらわないとね」


「去年は負けちゃったもんね」


「あの人たちはいい人なんだけどね、流石に部の代表が地区大会落ちじゃカッコがつかないわよ」


「・・・ゆーちゃん、あんまりきつくあたらないようにね。あの二人だって、ゆーちゃんと同じ種目ってだけで嫌でも注目されてるんだから」


「・・・それはわかってるんだけどね」


なんのかんの言って、彼女もあの二人には一目置いているのだ。二人とも、穏やかな人柄で、部内を円滑にまとめてくれているし、ちょっと図抜けているゆーちゃんが、悪目立ちしないでいられるのも彼女たちの調整のおかげの部分も大きいのだ。


「・・・でも、競技では手を抜かないわ。来週から、先輩たちの特訓ね」


「種目変えてよかった」


私は心の中で先輩たちに祈りを捧げた。

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