努力のご褒美
鶴見くんと一緒に勉強会を過ごした数週間ののち。
ようやく二日間に渡る試験が終わり、採点休みの水曜日。私たちは喫茶店ツインズに集まって、自己採点をしていた。
「ゆーちゃん、すごいよ!私、これまで自己採点とかしたことない」
「あたしも!いや、今回は鶴見くんによく教わったからさ、まー早く結果知りたいって気持ちはあるけど」
普段はそこまで試験に真面目に取り組んでいない私や涼子ちゃんは、そもそも自己採点というものをしたことがなかった。割と毎回試験にかけている夕や文香ちゃんはいつもやっているようで、お互いの回答をつき合わせながら、予想の点数を手早くまとめ始めている。
「・・・てゆーかさ、鶴見くんに答案見せてもらえば早いんじゃね?」
「涼子ちゃん天才か」
「・・・あのね、朝陽だって仕事中でしょ」
ここでも楽をしようとする私たちに、夕が呆れたような苦笑を向ける。
その時、勉強会の最後のメンバーが喫茶店に入ってきた。
「ふふふ、お嬢さん方、そんなこともあろうかと!この伏見恭平、朝陽から答案を預かってきました!」
入店後、流れるようにカウンターに立ち寄り、アイスコーヒーと共に答案を受け取った伏見くんが、私たちのグループに合流した。彼は、鶴見くんの親友を自負するだけあって、あっさりと答案を預かってきた。
最初の出会いこそ、(主に夕のせいで)あまり女子としては歓迎しづらい感じだったけど、話してみるとやっぱりいい人で、鶴見くんとはいいコンビなのだと思う。
鶴見くんも、彼と話しているときは、年相応の男の子っていう感じで、よくふざけあっている。
ただ伏見くんは成績は良くないようで、試験直前に合流した勉強会では、随分と夕や文香ちゃんに助けられていたようだ。
「ちなみに!朝陽から、自己採点で300点超えてるのが確定だったら、デザート一品無料との言質をとってきました!」
鶴見くんの太っ腹なサービスに歓声が上がる。
「いや、ゆーちゃん、あんたは実家なんだから遠慮しなさいよ・・・てゆーかどう考えても私と涼子ちゃん向けのご褒美でしょうが」
「そんなことないわ!朝陽がお姉ちゃんにおごってくれようとしているのよ」
「・・・もうそれでいいよ、このブラコンめ」
なんでこの姉は弟の財布に嬉々としてダメージを与えようとしているのか。鶴見くんがなんでこの変態を慕っているのか正直よくわからない。
そんな風に考えていたら、それまで静かだった文香ちゃんがそわそわしながら口を開いた。
「あ、あの!・・・自己採点始める前に、みなさん目標の点数言っておきませんか
?それで、それを達成できたら何か、ご褒美的なのをみんなであげ合う、とか」
「面白そうじゃーん、夕や雫、伏見くんも大丈夫?」
「あ、俺も入れてもらえるんですね。もちろん、いいっすよ。朝陽にも目標点聞いてきましょうか?」
「うん、お願い」
そういって席を離れる伏見くんを横目に、みんな手元の紙ナプキンに点数を書いていく。
「・・・オッケー聞いてきたよ、じゃあ誰から発表?」
「言い出したのは私なので、私から!目標は、350点です!達成できたら・・・播磨くんを遊びに誘いたいので、手伝ってください!」
文香ちゃんのまっすぐなお願いに、私たちは当然とばかりに頷く。
「播磨くんは幸せ者ですねー、こちら、飲み物です」
「つ、鶴見くん、聞いてたの!?」
「あははは、すみません。まあどうせバレるしいいじゃないですか。応援してますよ、うちもデートでぜひご利用くださいね」
「あ、それいいかも!このお店雰囲気すごくいいし!」
「6時以降なら僕もいないですから、気にならないと思いますよ」
そんなことを言いながら、鶴見くんはみんなに飲み物を配っていく。
「橘さんと夕はアイスティー、関さんはミルクティー、涼子さんがチャイティーですね。恭平はアイスコーヒーな。あ、300点超えた人は教えてくださいね、今日はラズベリーパイがおすすすめです」
会計ここ置いときますね、と言いつつ下がっていく鶴見くんの後ろ姿をぼーっと眺めながら、私はある違和感に気づく。
「・・・涼子ちゃん・・・?名前・・・!?涼子ちゃん、説明してくれる!?」
「あー、いや、ははは・・・あ、次私ね!じゃあ目標は320点!」
「あ、話逸らしたな・・・」
なんて露骨な。・・・でも、なんだろう、ちょっとずるい。私も、雫、とか呼ばれたいのに。
「ご褒美はー、このメンバー、もちろん鶴見くん込みで、お疲れ様パーティーとかどう?」
くっ・・・この女、ちょっと魅力的な提案しやがって、追求しづらいじゃない・・・。
「じゃあ次は私ね。うーん、目標は450点なんだけど、微妙かしらね。ご褒美は、正直涼子とかぶっちゃったから、思いつかないのよね・・・うーん、じゃあお疲れ様会の会場をツインズで開催ってことにしようかしら。うちの売り上げにもなるし」
涼子ちゃんと同じことを考えていたらしい夕は、そこに追加するような目標にする。
「じゃあ、ちょうどいいから俺たちの分も発表しちゃうな。朝陽の目標は480点、ご褒美は鶴見姉と同じだな。まあどっちかは達成できるだろ、ってことで保険みたいなもんらしい」
さすが姉弟、考えることは似ているらしい。あ、ちょっと夕が嬉しそうな顔してる。
「俺も目標は300点で。ご褒美は・・・鶴見姉、デートしてください!」
「「・・・おおーっ」」
「え、わ、私?」
「だめっすかね」
「えー、うーん、ダメってわけじゃないけど」
珍しく夕がうろたえている。多分、伏見くんが悪い人じゃないってわかっているのと、朝陽の友達だから対応に苦慮している感じ。
そしたら、鶴見くんがいつの間にか助け舟を出しに来た。お店の方は落ち着いてきたようで、涼子ちゃんの隣のソファに軽く腰掛ける。
「恭平、夕をあんまり困らせんなよ。夕、気乗りしないなら断って大丈夫だよ、恭平は基本いいやつだから、別に嫌な気持ちになったりしないし」
姉に助け舟を出しつつ、伏見くんのさっぱりした性格に触れて、フォローしつつ援護射撃をするあたり、さすがだなと思う。それを感じ取ったのか、伏見くんも小声でお礼を言っている。
ひとしきり悩んだ夕は、静かに口を開いた。
「・・・えっと、伏見くん、まずは誘ってくれて、ありがとう」
「お、おう」
「でも、私、実は結構そういうお誘い断ってきてるのよね。だから、ちょっと赤点回避したくらいで、っていうのも角が立ちそうだし・・・400点、くらい、かな」
「それもう無理じゃん!・・・いや、でもそっか、これまで色々断ってきてるよな、そりゃ。てゆーかありがとな、真剣に考えてくれて」
そう言って笑う伏見くんは、さっぱりしていて、鶴見くんのいう通りだと思った。それにしても、伏見くんがどれくらい本気なのかわからないけど、これだけはっきり好意を伝えられるっていうのは、ちょっと羨ましいと感じる。
「ううん、誘ってもらえるのは嬉しいから。でもね、その気があるなら、次はこんな景品みたいな感じじゃなくって、ちゃんと誘ってね?そうじゃないと、さみしいわ」
ちょっと上目遣いにそんなことを付け加える夕に、え!?みたいな感じで喜びとも驚きともつかぬ表情を交互に見せる伏見くん。
・・・これは、意外と脈ありなのでは?
せわしなく表情が変わる伏見くんの様子を見ながら、鶴見くんは珍しく爆笑していた。
やっぱり、こんな風に気を使わない感じの鶴見くんもいいなあ、と思う。だから、私もこのご褒美、というものを利用して、ずっと気になっていたことを口にする。
「ゆーちゃん、まんざらでもないね。・・・じゃあ、私ね。目標点は涼子ちゃんと同じ320点。ご褒美は・・・鶴見くん!私たちのグループでは、敬語禁止!伏見くんみたいな感じで接して欲しい、かな!」
「橘さん、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど・・・恭平とおんなじはちょっと」
「だって鶴見くん、喫茶店の外でもたまにお店モードで敬語だし。鶴見くんともっと仲良くなりたいので、くだけた感じで、お願いします!」
「あ、それ、俺も思ってた」
「恭平、お前まで」
「だってお前、鶴見姉の友達だと特に丁寧になるじゃん。でもそれって、ちょっと距離感じるのもあるかなって。さすがに俺と同じ扱いにすんのはあれだけど、ちょっとくだけた感じでもいいんじゃね」
「そういうもんか」
まさかの伏見くんからの援護射撃に、彼のほうを見るとにっこりとサムズアップされた。あれか、ちょっと夕の反応が良かったから、テンションが高いのか。
なお渋る鶴見くんに対し、涼子ちゃんも、ぜひお願いします!とおしていて、鶴見くんは最終的には首を縦に振ってくれた。
・・・涼子ちゃんや、お前だけ名前で呼んでもらってる理由は、ちゃんと聞かせてもらうけども。
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