少女たちの想い(夕視点)
思い返せば、先週はいろいろなことがあった。雫たちとの協定のおかげで、朝陽と学校でまた話せるようになった。本当は、私が話しかければいいだけなのだけれど、どうしても、これまでに形成されてしまった周囲の評価というものは簡単に変わるものではなく、私一人で変化を起こすには勇気が必要だった。
でも、今では雫や涼子が率先して、朝陽に声をかけてくれるおかげで、少しずつ、私たちのグループと彼との距離が正常に戻りつつある。まあ、あの二人は朝陽と個人的に仲良くなりたいみたいで、それは少しばかり面白くないけれど。
学年はじめのテストも、大きな出来事だったと思う。
木曜日に返却されたテスト結果は、学年に大きな衝撃を与えた。金曜日の朝には掲示板が張り出され、朝陽の叩き出した衝撃の点数が全校に知れ渡った。
それがもたらす赤点基準の異常な上昇とともに。
正直、これがどちらに転ぶかはわからなかった。雫や涼子のように、そこまで点が悪くないのに赤点の憂き目を見た生徒も多く、そんな彼らには恨まれてしまっても仕方ないのでは、という懸念もあった。
でも、そうならなかったのは。
去年一年間、嫌な噂を立てられながらも真摯に毎日を過ごしてきた、朝陽の人徳のなせる技だった。
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金曜日午後。全校集会での、成績優秀者の表彰。初めての試みとあり、すでに表彰を行った三年生ですらかなり緊張していた。
それでも、中にはこれまであまり注目されずに好成績を収め続けていた先輩もおり、そんな先輩方の嬉しそうな、満足そうな笑顔を眺めていると、私まで嬉しくなってしまった。これだけでも、この表彰という試みはやってみる価値があったと思う。
「第二学年の表彰に移ります。まず、10位、鶴見夕さん、2年7組」
私は、表彰される面々の中で最下位なので、一番早く表彰状を受け取り、壇上右端に避け、後続を待つ。同じクラスの石間君が表彰されているのも見えるが、私の意識はほとんど朝陽と、彼が表彰された時の周囲の反応に向けられていた。
彼が学年一位になったのは嬉しい。彼の努力が報われたのが嬉しい。ほとんど初めて、「正当に」評価されたことが嬉しい。
だけど、それ以上に。
それを真正面から受け入れられない生徒が多くいることを、私は知っている。
去年一年間で、身を以て分からせられてきた。
彼の表彰にブーイングやヤジが飛び、台無しにされてしまうのではないか。
そうならないよう、朝陽が表彰状を受け取り頭を下げたら、誰より早く拍手を始めよう。
少しでも、空気が変わるように。
整列するクラスの中から、雫や涼子に目線を送り、そんな決意を心に秘めていたのだけれど。
「第二学年、第一位、鶴見朝陽くん、2年7組」
そのアナウンスが終わるか終わらないか、といったタイミング。まだ、朝陽が表彰状に手を伸ばしてすらいないタイミング。
私の予想通り、しかしはるかに早く、ヤジは飛んだ。
けれども、それは、私の予想した通りの内容ではなくて。
「おめでとう!」
「鶴見、ついにやったな!」
「ほらな、見たかお前ら!」
「鶴見君サイコー!」
「いったろ、あいつすげーんだよ!」
口々に乱れ飛ぶ賞賛の声。指笛の音も響いており、教職員の制止の声が虚しく響く。
「嘘・・・」
私は、拍手をするのも忘れ、それらの声の発生源を眺める。
見れば、それは朝陽と去年一年間クラスメイトだった生徒たち。他のクラス出身の者たちを巻き込み、率先して、何よりも自分のことように喜んでいる。
「(そっか・・・みんな、一年間。ちゃんと朝陽のことを見ていてくれたんだ・・・)」
朝陽に触れ、その良さを身を以て知ってくれている友人たち。その様子を見て、心が熱くなる。
やはりというか、特にうちのクラスの伏見君は凄いもので、壇上からでも泣いているのがわかる。
みんな、自分たちの友人が賞賛される舞台を得られたことを、本当に喜んでくれている。私も壇上にいるのでなければ、泣き出していただろう。
その気持ちを隠すように、大きく拍手を送る。
見れば、違うクラスの出身者でも、声援を送っている人もいる。朝陽ともめた過去があると聞いたバスケ部の堀田君も、部活の仲間とともに指笛を送っている。むしろ、その音が一番大きく、体育教師がそちらに駆け寄る姿を見て一層大きな音を出している。
もちろん、中には赤点を取らされて複雑な心境の生徒もいるだろう。声援を送っていない生徒の方が多いのだから。
それでも。
それでも、これは確かに去年は見られなかった光景で。
「(よかったね、朝陽)」
私は、心の中で、親愛なる弟への祝福を送った。
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