「お前のせいだ!」の「お前」は大抵そこまで悪くない
「鶴見君のせいですよー、どうするんですか!私今日家帰れませんよ、このままじゃ!」
テストの個人成績通知が終わった夕方。私は、夕と一緒に涼子と一緒にツインズのカウンターで鶴見君に絡んでいた。涼子は今日初めてが初めてということで、一緒に入店した文香とともにちょっとそわそわしていた。
喫茶店で働く鶴見君の様子はできれば秘密にしたいと考えている私たちだったが、まあ鶴見君プロデュース企画の協力者である二人ならしょうがないか、と私たちが折れた形である。
なお、文香はギリギリながら赤点を回避し、掲示板にも残ったことから授業料補助の継続も決まり、比較的落ち着いた態度で私が勧めたホットサンドをおとなしく食べている。
ただ、チラチラ鶴見君の顔を見上げては、目が会うたび真っ赤な顔をうつむかせているあたり、髪を切ってからの鶴見君をかなり意識しているみたいだ。
・・・まあ、お前播磨君のことはいいのか、という気持ちがなくはないが。
さて、冒頭の発言に戻ると、私と涼子は、それぞれ284点、279点という、普段だったら多少余裕を持って赤点回避、という成績だった。
正直、思ったよりも点数が取れたな、という感じもする。
一位の点数が飛び抜けているから、先生方が苦心して部分点を多めにつけてくれたせいかもしれない。
ただ、その先生方の奮闘むなしく。
今回に限っては鶴見君のジャンプアップにより初めて「赤点」の通知を受けてしまったのだ。
鶴見君は、くだを巻く私たちに、ちょっと申し訳なさそうな感じで微笑みかける。
「本当は、赤点の基準をどうにかすべきかと思うんですが・・・なんだかごめんなさいね」
「いえー、鶴見君が謝ることじゃないんですよー。ただちょっとねー、赤点はちょっと落ち込みました。親になんて言おう・・・」
実は、なんて言おう、も何も、赤点を取ると成績通知の紙が赤くなるので一目瞭然なのだが。
余談だが、成績通知の紙は、トップ10%が青、赤点が赤、それ以外が白である。今回の試験では、なんと白の発行枚数が青と同程度まで落ち込むという、印刷室泣かせの結果となった。
「あたしたち、赤点初めてなのよね・・・てかさ、鶴見君これからもこの感じで今年一年がんばる感じ?だとしたら、毎回数百人赤点だけど」
「・・・あはは」
複雑そうに笑う鶴見君を見ながら、これは毎回こんな感じになるんだろうな、と感じる。
ちなみに、一緒にきた夕はカウンター席の端っこでニコニコしながら私たちのやりとりを眺めている。
「ゆーちゃん、そんなに私たちが苦しむのが嬉しいの」
「違うわよ・・・朝陽が10位のお祝いだってケーキサービスしてくれたし、夕飯も頑張ってくれるって聞いて、幸せを噛み締めているだけ」
「あんたいよいよ弟の前でも隠さなくなってきたな」
完全に自分の世界に入り込んでしまった夕を眺めながら、鶴見君の方をちらっと見やる。
「まあ・・・夕は今回頑張りましたので」
「鶴見君、お姉ちゃんを甘やかしたいのかもしれないけど、私たちも頑張ったんだよ、結果赤点だったけど」
「・・・皆さんも、ドリンク一杯サービスしますよ」
・・・ちょっと強請った形になってしまった。ともあれ、私たちはこの状況をなんとかしないといけない訳で。
「でもさ、涼子ちゃん。正直なところ、次回からもヤバくない?」
「そうなんだよね、鶴見君が500点近く取ってくるとしたら、私たちなんとか300点取らないといけない訳でしょ?完全に無理って訳じゃないけど、ちょっと独力だと大変よね」
「あ!それでしたら。まあ、僕が発端ではあるので、罪滅ぼしも兼ねて、勉強のサポートさせていただけませんか?僕自身の勉強もあるので、お二人が良ければ、橘さんと崔さんの試験準備、次回から手伝いますよ」
「「・・・いいの?」」
願っても無い申し出に、私も涼子も驚く。
「もちろんです。勉強の際は、是非うちの喫茶店で。最初の一杯くらいはドリンクサービスしますし。お客さんが落ち着いている時間帯にお手伝いします。まずは来月の中間テスト、お二人とも赤点回避しましょう!」
鶴見君だって働いているわけで、流石に常に一緒に座っている訳にはいかないだろうけど。
正直なところ、鶴見君と一緒の時間を過ごせるのはとても嬉しい。
「でもそれだと、あたしたちが貰いすぎになっちゃうかも」
「崔さん、本当にお気になさらず。ただそれでも気になるようでしたら、追加でスイーツでも、お料理でも注文いただければ」
そうやって、こっちの商売にもなるから、とこっちの気を軽くしてくれようとまでしてくれる。そんな彼のスマートな気遣いに、遠慮するそぶりを見せていた涼子も折れたようだ。
まあ、彼女も鶴見君のことを気に入っているみたいだし、遠慮はポーズだけ、だったのかもしれないけど。
でも、この機会を逃すのは確かに勿体無い。
「じゃ、じゃあさ、また私と涼子の時間が合う時、早速来週くらいからでも、きてもいいかな?部活もあるからあんまり長い時間は無理だけど、やっぱり、普段から勉強した方が試験に向けてはいいと思うし」
7割くらい、本当の話。中間試験まで、約1ヶ月しかない。今回の試験で、基礎ができてないことが明らかになってしまったので、準備期間が多いに越したことはない。
残りの3割は、できたら、もっと一緒にいる時間を増やして、鶴見君のことを知りたい。鶴見君にも私のことを知ってほしい、というわがままから。
「もちろんです、いつでもお越しください」
そんな、下心が見え隠れする提案にも、鶴見君はにこやかに応じてくれる。
ああ、やっぱりそういうところ、好きだなあ・・・。
隣で、「ずいぶん勉強熱心だこと」と夕が睨んできたが、それに気づいた鶴見君が「もちろん、夕も文香さんもいつでも来てくださいね」とフォローしてくれる。
私と涼子で独占できないのは残念だけど、この気遣いはありがたかった。私たちだって、特に涼子と文香は、友達だけど、まだ親友ってほどでもない。こういう小さいところで仲がこじれるのは嫌だったから。
「来週から、勉強頑張ろうかな、鶴見君に会えるなら」
「あたしも頑張るわ。鶴見君成分を補充しつつ赤点回避とか贅沢だわー」
そんな、ちょっとこれまでより直接的に彼への好意を滲ませた私たちのつぶやきにも、微笑んでくれる。
私たちよりちょっとだけ大人な、喫茶店の主人の雰囲気。
髪型は少し変わったけど、やっぱり、働いてる鶴見君はカッコいい。
そんなことを改めて考えている私に、夕はニヤニヤしながら話しかけてくる。
「また、この店を秘密にする理由が一つ増えたわね」
本当にそうだ。鶴見君との勉強会。それは、ここにいる私たちだけの秘密の楽しみなのだから。
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