天志高校における定期テスト(恭平視点)
天志高校では、年間に実に8回も学力試験がある。もちろん、上位10%が掲示板に掲載される、というのはわかりやすい。ただ、実はこの上位10%というのは、学力ベースの授業料補助を獲得している奴らの達成目標でもある。つまり、朝陽や委員長なんかは、ここを確実にクリアしておかないと、授業料補助がなくなるので、実質値上げになる。
一方で、俺のように馬鹿な奴はテストの点に全く興味がないかというと、そうではない。何しろ、天志高校の赤点設定は、科目別最上位の生徒の60%、と厳格に決まっており、主要5科目中の3科目でこの基準を下回ると、晴れて「赤点」という評価がつく。そして、この「赤点」を連続して3回、もしくは年間で5回とってしまうと、自動的に留年が決定する。高校なのに留年って、と思うが、毎年結構な人数が後輩になる。(とはいえ、だいたい同じ数が上からも落ちてくるので、学年の人数はそんなに変動しない)
部活をやっている奴らは、「赤点」をとると次のテストまで継続的に放課後の補修が課されるので、部活参加が制限される。結構な数の学生がスポーツベースの授業料補助をもらっていて、競技成績が授業料に反映されるので、これは死活問題であると、スポーツ一直線な彼らもテスト前ばかりは本気で詰め込み型の試験対策をすることになる。
俺はといえば、昨年は実に赤点を3回も獲得(流石に連続ではなかった)してしまい、演劇部の顧問から結構本気の警告文を受け取ってしまった。今年こそ、なんとかしたいと思っているのだが、目下の問題は、親友とも言える鶴見朝陽だった。
「な、なあ、朝陽。お前が試験直前まで見直ししてるなんて、珍しいな。微妙なのか」
月曜の試験開始10分前、自席で英語の単語帳を捲る朝陽に声を掛ける。
「うん、ちょっと思うところがあって。今年は本気でやろうかな、と」
そう答える間にも、単語帳を捲る手は止まらない。そして、俺はその発言にかなりの衝撃を受けていた。
朝陽は、結構なんでもそつなくこなす一方で、実家の手伝いも忙しいらしく、なんだかんだ言ってテストに全力投球するタイプではない。まあ、それでもトップ10位から落ちたことがないのでそのポテンシャルが凄まじいのだが。
「なんだ、やっぱ気にしてんのか?鶴見姉と比べられること」
「うーん、まあ、それは気にしないと言ったら嘘になるけどさ。それより、ちょっとやってみたいことが見つかったんだよね。ただ、そのためにはちょっと頑張んないといけない感じでさ」
「そうかいそうかい」
朝陽がやってみたいことに関して、詳しくは聞かない。こんな短い時間で聞くことでもないだろうし、朝陽は自分の考えをしっかり持っている奴だ。彼が話してもいいと思ったら、自然と話してくれるだろう。
ただ、問題といえば、朝陽が「本気」だということだ。うちの高校の試験はおしなべて難しく、科目別の最高点でも80点台前半にとどまることが殆どだ。ただ、なかでも英語と国語という文系科目に関しては、半分以上の確率で朝陽が学年トップを獲得していた。「本気」でない状態で、だ。
「ちなみに、目標点は?」
「英語は満点」
「そ、そうか・・・」
それを、言い切れるのがすごい。多分、しっかり内容を理解しているから、うっかりミスさえなければ本当に満点取れるレベルなんだろう。これは同時に、俺たち下々の民にとって、赤点想定点が40点台から50点台後半へと急上昇することを意味する。正直、俺のようにヤマを張って対策している存在は、こうなってくると太刀打ちできない。
「・・・せめて先週のうちに知っておきたかった」
「なんか、ごめんな」
「いや、いいんだ・・・結局のところ自業自得だから・・・」
俺にとっての学力試験は、今年も厳しいものになりそうだ。
ーーーーー
・・・終わった。何がって、もはや40点すら怪しい。朝陽は何も言わずに次の数学の準備を始めているが、早速、英語は科目別で赤になったとみて良いだろう。あと2日間で4科目。引き分けに持ち込んで行かないと、最初の試験から「赤点」とか目も当てられない。
このわずかな15分休憩でも、朝陽は問題集のチェックを続けているようだ。
本当に、本気を出しているようだ。
朝陽はこれまで理数系の科目は割と流すことが多かったのに、本気で点を取りに来ている。
実のところ、朝陽がなんでこんなにやる気になったのか、検討はついている。それは、学年年間3位までに与えられる、「推薦状」特約だ。
二年生の一年間は、大学受験に向けてかなり特別で、この年間成績でトップ3に入ることで手に入る特約。これは、通常の指定校推薦などとは訳が違う。
海外大学や、国内一流大学の特別推薦試験で重要となる推薦状。その必要枚数が揃うように、「最適な人物とのコネクションを天志高校の責任でセッティングしてくれる」という破格のものだ。
噂でしかないが、昨年、米国東海岸の一流大学へ行った先輩は、この特約で、同じ程度の難易度である複数の大学の現役教授陣のゼミに2ヶ月派遣してもらい、無事に推薦状を書いてもらったという。もちろん、全費用が天使高校持ちという破格の対応だったらしい。
朝陽は英語も得意だし、もし留学を考えているなら。こんなチャンスを逃すわけがない。
ちなみに、年間成績は、各試験の総合上位6名にポイントが割り振られ、その年間合計点で決定される。つまり、学年7位ー10位は、非常に優れた成績ではあるものの、年間総合成績で考えるとゼロポイント。実際、朝陽は昨年何度か上位6番に食い込んだものの、7−8番手に甘んじることも多く、年間では9位だった。だからこそ、各試験で確実にスコアを稼ぐためにこそ、本気なのだろう。
何をやりたいのかはわからないけど。いつも一歩引いた親友が、その夢に向かっているなら。
本当に頑張ってほしい。
朝陽、お前ならできる。
でも、そのせいで、俺は赤点だろうけど。
頑張れ、朝陽。
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なお、数学は朝陽の出来に関係なく赤点が濃厚だった。20点取れてないんじゃ・・・。
2戦2敗。明日の3科目で挽回することは諦め、来月の中間テストに備えるのが賢明だろう。
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