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鶴見くんを発見させたい

ここで話は冒頭に戻る。鶴見くんのおもてなしを満喫し、結局デザート三点盛りまでサービスしてもらった金曜日から、休日を挟んだ月曜日。


私は、新学期初日のことを思い出しながら、通学路を一人歩いていた。


休日の間に、考えていたことがある。もちろん、あのあと、夕と話し合い、働いている鶴見くんの姿はしばらく秘密にしておくという私欲にまみれた本末転倒な合意を形成してしまったのであるが、それはそれとして、私はどうにかしてみんなに鶴見くんの良さを知ってもらいたいと考えていた。


もちろん、夕が目立つのは仕方ない。でも、それに負けないくらい、素敵な人なんだと。ちょっとずつでもみんなに知って欲しかった。それが、例え競争率を上げてしまうことになっても・・・。




ーーーーー




クラスに着くと、夕は文香と涼子と話していた。崔涼子は、見た目こそちょっと派手だが、割と情に厚いところもある子で、スポーツに真面目に取り組んでいるという共通点もあって、なんとなく仲がいい。


「あら、雫、おはよう」


「「おはよう」」


先週はあんなにブラコン全開でぶっ壊れていた夕だったが、修復が完了したようだ。


「みんな、おはよう。なんの話ししてたの?」


「テストの話です!私、今回こそ播磨くんに勝って、五連敗から脱するんです!」


「ああ、文香ちゃん、あの勝負、まだやってるんだ・・・。てか五連敗してるんだ・・・」


それは、なんというか、執念深いのか、なんなのか。


「文香は播磨くんとの勝負好きだよね。あたしはあんまり勉強とか、どうでもいい感じかなー、赤点取らなきゃいいっしょ」


「涼子はお気楽でいいわね」


「いや、夕が気張りすぎなのよ。あれでしょ、また弟君に負けるの気にしてるんでしょ」


「え、涼子ちゃん知ってたの?鶴見くんのこと」


私、先週初めて知ったんですけど。


「あ、そうなの?うーん、ウチらのバスケ部だと有名なんだよね。うちの馬鹿な男子、堀田っていうんだけど、そいつがちょっと前にちょっかい出したらしくって」


「「え!?」」


私とブラコンお姉様の声がハモった。ちょっと恥ずかしいが、それよりも、ちょっかい、というのが気になった。い、いじめ、とか・・・?


「ああ、あんたたちが気にする内容じゃないのよ。なんかね、噂を真に受けて、恥かかせてやろうとしたのか、夕のこと馬鹿にする感じで、わざと鶴見くんを怒らせて、その上でバスケ勝負に持ち込んだのね。なんか、おんなじ部活として申し訳ないくらいダサい話なんだけど」


「知らなかった・・・てか、朝陽、私のために怒ってくれたんだ・・・」


「あ、ゆーちゃんがトリップした」


「え、この子こんな感じなの」


涼子と、それを見ていた文香がちょっと引いている。


「うーん、私も、先週末知ったんだけど、鶴見くんのことになるとこんな感じで・・・」


帰ってこなくなってしまった夕は、放っておいて、涼子の話の続きを促す。


「まあ話し自体は単純なんだけどね。1 on 1で10点先取みたいなルールにしたのよね。堀田はその時、レギュラーじゃなかったけど、バスケ部なんだから、勝てると思ったんでしょうね」


「え、鶴見くんその後勝ったんですか!?」


文香が驚きの声を上げる。


「そうなのよ!いや、びっくりしたわ。いや、もちろん、技術的なところはね、堀田の方が断然上よ。でもね、鶴見くんは、ディフェンスの運動量がすごかったの。ギリギリファールにならないように、丁寧に、でも相手に確実に時間をかけさせるディフェンスでね、スコアは7−4くらいで堀田がリードしてたんだけど、そこから結局しびれを切らしてラフプレイに出た堀田があれよあれよという間にファールを重ねて、ファイブファールして、結局9−5かな?リードしてたのに、堀田の判定負け」


「なんか、すっきりしない負けですけど、堀田くん納得したんですか?」


「納得したんじゃない?てか仮にもバスケ部だし、あれで文句は言えないわよ。だって、鶴見くんからしたら技術的な勝ち目がほとんどない中で、勝とうと思ったらあの作戦しかなかったと思う。それは、堀田もわかってたでしょ。最初っから自分の強みの体力勝負に持ち込んで、オールコートでのディフェンスをずーっと続けてたのよ?例えば格上との試合で自分のチームにそんな選手がいたら文句なくヒーローよ」


「へー、そんなもんなんですねえ」


あまりスポーツに詳しくない文香は、ちょっとピンときていない感じだったが、私はなんとなくわかった。長距離の世界でも、記録だけでなく、勝負にかける時には、一見無謀な作戦にチャレンジすることもある。もちろん、それってすごく辛いし、厳しい勝負だけど、ごく稀に成功することがある。そんなレースが、後世まで語り継がれるレースになるのだ。


「鶴見くん、スポーツスタイルまでイケメンなのか・・・素敵すぎかよ」


「なに、雫、彼のこと気になってるの?」


「ちょ、ちょっとね。いいなって」


そういってしまってから、からかわれるかな?と思ったら、涼子の反応は意外だった。


「あー、わかるなあ。彼、いいよね。私も直接知ったのは、そのバスケ勝負の時だったけど、その後わざわざ外で見てた私のところきて、夕のことお願いしますねって。私、堀田のちょっかいを止められなくって、外から見てただけなのに。多分、普段私が夕とよく一緒にいるの知ってたんでしょうね。今回のことで夕が逆恨みみたいな嫌がらせされないように、見ていてもらえますかって、頭下げて。あんまりパッとしない感じの子なのかなって思ってたんだけど、すっごくサッパリしてて、なんかそこらの男子より芯があるなって、思ったんだよね」


「涼子ちゃん、めっちゃ語るやん」


「え、いや、まあね?試合中に見たんだけど、髪アップにしてコンタクトの時、やっぱ夕の弟だし、イケメンだし?うん、いいな、って。どうせ、雫だって似たような感じでしょ?」


「うっ・・・否定できない」


なんだなんだ、鶴見くん、すでに涼子も攻略済みか・・・。文香はちょっとわかっていない感じだったけど、意外と、身近にライバルがすでにいたようだ。そう思って、話を続けようとしたところで、涼子の背後にジト目を向ける夕に気づいた。


「・・・あんたら、人の弟に色目使うんじゃないわよ」


「いやいや、怖い怖いって」


「ゆーちゃん、本気で嫉妬しないでよ・・・」


まあ、でも。こうやって、少しずつだけど。決して大多数ではないけれど。鶴見くんの素敵なところを、知ってくれている人がいるっていうのは、嬉しいことだった。


私と夕が、そういう風に、彼の注目度を上げたいんだ、と話し合ったことを涼子と文香にも伝えておく。


涼子は、それいいアイディアじゃん!とかなり乗り気のようだ。まずは髪型を変えたらいいと思うのよね、眼鏡もコンタクトにするでしょ、とすでにプロデュースを考案し始めた彼女は、サバサバしていて友達も男女問わず多いし、味方にすれば、ずいぶん頼もしい。




できれば、鶴見くんの素敵なところは、もうちょっと、秘密にしておきたい気持ちもあるけど。




そんなことを考えていると、これまで会話に入っていなかった、文香が爆弾を放り込む。


「でもでも!そんな素敵な弟さんが、今日からの年度始めテストでいい成績とったら、もっと多くの人が鶴見くんを見てくれるよ思います!」



そうだった。進路を意識し始めた二年生。去年までとは違う。成績がいい、ということの評価は去年までの比ではなく彼の立場を大きくするだろう。




「特に今年から、奨励のためにトップ10は集会で表彰するようですし、楽しみですね!」


「「「えっ!?」」」



髪を整えて、コンタクトにした喫茶店モードの鶴見くんが全校集会で表彰される?それは、想定以上に目立ってしまうのでは・・・。


そんな想像をして、思わず夕や涼子と顔を見合わせる。


鶴見くんを発見させたい、でも発見させたくない、という相反する気持ちを抱く、文香以外の三人の情けない声が、まだ人の少ない教室に虚しく響いた。

(第1章 出会い編 了)


お読みいただきありがとうございます。励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。

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