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双子の鶴見さん(1)

拙作をご訪問いただきありがとうございます。


今回が第1作目の投稿になります。


これまでちょこちょこ書いていたのですが、ある程度、構想を持って書くのは初めてかもしれません。拙い部分があると思いますが、温かく見守ってくださると嬉しいです。


某県某所の私立天志高校。外資系企業がそのイメージ戦略と母国への人材斡旋への足がかりとして多額の投資をして設立した、風光明媚な海沿いにキャンパスを構える新興の高校である。設立して10年ほどであるが、年々拡大する規模と、国内有力大学だけでなく海外大学への進学実績があることから、県下随一の進学校としての評判を確立しつつある。学校の規模は年々拡大しつつあり、現在では一学年10クラスという規模になっている。


先進的な教育方針の一方で、スポンサー企業の意向により、地元学生の受け入れにも積極的である。特に、天志高校が所在する市内の出身学生が合格すると、授業料が減額される制度があるなど、地元の優秀な学生にとっては、県立高校よりお得になることもあるほどであり、大きく歓迎されている。


私、橘雫は、この天志高校に通う二年生だ。高校進学と同時に隣県から引っ越してきた。中学から続けてきた陸上を続けていて、駅伝チームの一員になっている。クラスでもそこそこ仲のいい友達に恵まれたと思っているし、学校生活に概ね不満はない。まあ、彼氏とかを作ったらもっと楽しいのかも、とも思ったりもするのだが、一年生の間は新しい環境に慣れるので精一杯で、とてもそんな余裕はなかった。


でも、今年のクラスには、ちょっと気になる男の子がいる。


鶴見朝陽くん。


あまり目立たない、静かな男の子。名前は前から知っていたけれど、初めてあったのは先週金曜日、二年生最初のホームルームでのことだった。


ーーー


「よし、今日からみんなも高校二年生だな。学年が上がったわけだから、ちょっとはおとなしくするんだぞ。最初の席順をここに貼っとくから、その通りに着席しろー。ホームルームやるぞー」


2年7組担任の宮原先生の声に、登校してきた私達は次々に席についていく。私も、自分の席である後方の席に向かう。朝、昇降口て確認したところ、知っている顔が何人かいるようだ。既に私の席の隣に着席している鶴見夕もその一人だ。均整のとれた体つきに優しそうな瞳、肩のあたりで切りそろえた黒髪が涼しげだ。


「ゆーちゃん、おはよう!今年も同じクラスだねー、よろしく!」


「おはよう、雫。先週の部活以来ね。春のオフは楽しめた?」


「うーん、ぼちぼちかな?気を抜いていると、すぐ一日映画見ちゃったりゴロゴロしちゃって、なかなかね」


「じゃあ、来週からの年度始めテスト、やばい感じ?」


「頑張るけど、そうかも。まあ赤点はないよ、赤取っちゃうと部活行けないし」


そう、と安心したようにつぶやく夕を見ながら、どうやってテスト対策を手伝ってもらおうかと考えを巡らせる。うちの高校は、各学期の中間・期末に加えて、年度始め、年度終わりに一回ずつ試験があり、合計八回も試験があるのだ。その度に、成績によって奨学金の見直しや、部活参加への頻度制限などが行われるので、運動部レギュラーとはいえ気は抜けない。


「でも、ゆーちゃんは頑張ってるし、心配無い感じかあ。。。手伝ってー」


「それはいいんだけど。。。」


少しいいよどむ夕を見て、あれ、と思う。夕は陸上部の長距離エースで、二年生ながら駅伝のキャプテンも務めている。その上で、一年生の時は常に掲示板に掲載される成績上位10%をキープしていた、と聞いたことがある。


「どしたの?ゆーちゃん」


「いや、見た感じもっと頭のいい子たちがいるから、そっちに教わった方がいいんじゃないかなって思ったの」


「え、ゆーちゃんより頭いい人このクラスにいるの?」


「そりゃいるでしょ、私は掲示板じゃ下の方なんだから」


「私の知ってる人いるー?」


「うーん、播磨くんは去年のクラス一緒だから知っているわよね?あと、文香も」


播磨くんは、努力家という言葉がぴったりくるような、エネルギーの塊のような男の子だ。去年は私たちのクラスの委員長としてクラスをまとめてくれていた。定期テストでも、だいたい学年10番台にいたはずだ。文香ちゃんは今年から生徒会に入ることが決まっている女の子で、去年よく一緒に遊んだ。播磨くんと昔からの仲良しらしく、よく成績でも張り合っている。とは言っても、だいたい20番台くらいらしく、去年は播磨くんに1勝7敗だったらしい。


掲示板に入る上位10%というのは、まあその時の人数にもよるので厳密には決まっていないのだけど、だいたい上位38ー39人くらいが発表されている。夕は30番台の常連だったので、確かに二人の方が上なのかもしれない。


「えー、でもゆーちゃんの教え方の方がわかりやすいー」


「うーん、というか、今年はあんまり人に構っている暇ないかなって」


「どゆこと?」


「いや。。。」


なおもいいよどむ夕を見て、なんだか煮え切らないものを感じる。さっきから、ちょっと入り口を気にしているみたいだし、誰かに聞かれたくないみたい。


あまりこの話はよくないかな、と思い話題の転換を図る。


「あ、そういえばさ、ゆーちゃん、今私の右隣に座ってるけど、席って左隣じゃないの?窓際の方の席に鶴見って書いてあったんだけど」


その途端、夕の顔が引きつる。


「えっと、ここが私の席よ」


「え、私見間違えた?」


いや、そういうことじゃなくって、といい出しづらそうに口を開く夕。その時、誰かが件の左隣の席を引いたガガッという音が響き、私は思わずそっちを振り向いた。


そこには、すらっと背の高い、眼鏡をかけた男の子が立っていた。少し色素が薄い長髪で、その表情を伺うことは難しい。ただ、威圧感を感じるほどではない。それは、その男の子の立ち居振る舞いが柔らかいからだろうか。


その男の子は、席に座ろうとはせず、こっちを見ながら、正確には、夕を見ながら口を開いた。


「なんだ、夕もおんなじクラスだったんだね。よろしくね」


私はなぜだか、彼の眼鏡の奥の瞳に、見覚えがあるような気がしていた。

お読みいただきありがとうございます。励みになりますので、ブックマークやコメント・ご指摘など、よろしくお願いします。感想などもいただけましたらぜひ参考にさせていただきます。

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