その8
「Fの三十五番、シールド発動! 展開しました!」
オペレーターの言葉に合わせガラススクリーンいっぱいに薄透明色の幾何学模様が広がる。それとともに宇宙ゴミが緩く絵画へバウンドし、大気圏に落ちて燃えあがった。無事オグジンとジグストが相殺されたのだろう。管制室にいた人々がほっと胸をなでおろし鳥越が振り返る。
「よくやった、小山内」
「ありがとうございます」
軽く頭をさげると、鳥越が手元を指さしてきた。
「よく薄藍色の和紙素材シートなんて持っていたな。色の濃さや明暗でシールドの強さを調整するとはいえ、薄藍なんて薄いシート色を、しかも和紙をちぎってシートとシートの隙間に張りつけるなんて作業、なかなかできるもんじゃないぞ」
「薄藍も和紙素材もあたしのお気に入りだから」
持っていた和紙素材シートをひらひらさせつつ微笑むと、鳥越が納得したように頷いた。
「そうだな、お前たちは普通のカラー素材用紙は使わないんだったな」
「うん。持ってはいるけどね」
首肯しながら瑠璃は内心で舌をだす。近年作られたラップ質のフィルムタイプ用紙と違い、つるつるとしていない素材は倦厭されがちだ。特に和紙の要素を多分に含んだこの用紙は、何で切っても毛羽立つだけに使用する人間はまずいない。
(母さんが亡くなったあの時、はがれかけた青いシートの上から青いシートを重ねたら、シールドの穴が塞がりシールドが厚くなった……)
この毛羽立ちこそ、電子キャンバスへ置かれた最新用紙の欠点をもカバーしてしまう効果を持っているというのに。
(最強の紙なんだけどな)
どうやったらみんなに理解してもらえるのだろう。こっそりと溜め息をついていると、武藤が嬉しげな微笑みを浮かべて近づいてきた。