その7
「座標位置Aの三。シールドを飛ばします。展開隊員、展開準備をよろしくお願いします」
『了解! シールド確認。展開します!』
『展開成功。次をよろしくお願いします』
オペレーターと作業部隊である展開隊員たちの声がこだまする。ガラスドームに映し出された宇宙では先輩たちの創りだした模様に沿い、透き通った色とりどりのシールドが、展開隊員たちによって広げられている。展開された万華鏡のようなシートが宇宙ゴミを包み込み、ふわりと方向を変えたゴミは次々と落下して燃えつきていった。
(あれが第十八物質要素オグジンによって反物質要素ジスクトが相殺された状態なのね)
人類が長い間物質を構成する要素として認知していたものは、十七つの粒子のみであった。その論理が覆ったのは、今から二十年前のことだった。第十八の物質要素オグジンと、今までは存在しないとされていた反物質要素、ジスクトが発見されたのである。人々は宇宙の起源にこの二つの存在が深く関わっていることに気がつき、同時に反物質要素ジスクトが生物へ害を及ぼすものであることも知った。
(でも、物質と反物質はぶつかる数が同じならゼロになる……)
物理学者に科学者及び化学者たちはそれぞれの力を結集し、増加しつつある反物質要素ジグストを防ぐため、物質要素オグジンを量産する方法を見つけだした。
(そのために父さんは絵描きだった母さんと重力波を測定し、『切り絵〈これ〉』を使って重力波ごとにシールドを展開させジグストを包み込み、相殺させる技術を開発したんだ……)
管制官の外には大型の電磁波シート発生装置が何台も設置されている。創作ポットにある電子キャンバスから生みだされた絵を、座標ごとに物質要素オグジンなどで構成した特殊電磁波シートへ変換し宇宙へ飛ばすのだ。
瑠璃が腕を組み人類の歩みを無言で振り返っていると、そこへ新たなアラーム音が鳴り響いた。
「しまった! 別の重力波がでてきた! カラー青……だが、これは今までの波動パターンと違う! このままじゃ地球に入り込んじまうぞ!」
「よし! 俺が!」
鳥越が紫色の紙とハサミを手に創作ポットへ入っていく。
(だめ! あの色と形じゃ隙間があいちゃう!)
瑠璃は無理やり創作ポットへ乗り込んだ。すぐさまブレザーの裏地に忍ばせていた薄藍色の和紙素材シートを取りだす。手の感覚だけを頼りに適度な大きさへちぎり、先輩たちを押しのけ電子キャンバスへと貼りつけた。