その11
「宇宙へ行くぞ」
『はい!』
鳥越と武藤を結束バンドで発射台の手すりへ縛り幸利が宣言する。彼方と城ノ介が力強く頷くと、横合いから声がかかった。
「私も行きましょう」
南が凛と姿勢を正し言葉を紡ぐ。瑠璃は目を瞠り彼方たちと顔を見合わせるが、幸利は南の言葉を予測していたのか小さな会釈で答えた。
「よろしくお願いします」
幸利の言葉に南が応じる。
「急ぎましょう」
「はい。……瑠璃」
南に向かって頷いた幸利が、視線を向けてきた。
「え、な、何?」
突然名を呼ばれ慌てていると、幸利が硬い声で指示してきた。
「永瀬さんと一緒に用紙を取ってくるんだ。図案も完成させて早く制作するように。俺たちが宇宙で展開する」
「な! そんなのいきなりは無理だよ! 用紙だって副校長に盗られて足りなくなってるんだし!」
そんな無茶苦茶な要求呑めるはずがない。瑠璃は幸利に食ってかかる。だが、幸利の視線は冷やかだった。
「この間も言ったはずだ。できるか、できないかだ、と」
ひたと見据えられ瑠璃は言葉を詰まらせる。確かにこの間啖呵を切ってしまった分、幸利の言い分を否定できない。瑠璃は小さく息を吐き嫌々ながら承諾した。
「……やれるよ」
呟くように告げると幸利が目で肯定し高須磨を見やる。
「高須磨先生、二人をお願いします。こちらとの交信はインカムで」
「わかりました」
高須磨が返答すると、幸利が彼方たちを伴い踵を返した。宇宙船の元へと向かう父親たちの後ろ姿を眺めていると、高須磨が声をかけてくる。
「急ごう!」
「はい!」
瑠璃は高須磨の言葉に力強く頷き、へたり込んでいた七海へ目をやった。
「七海、ほら立って」
手を差しだすと、七海が申しわけなさそうにその手をとる。
「ごめんなさい、二人とも」
「謝罪はあとだよ。それより今は早く研究室へ行かないと」
「うん」
瑠璃はしょぼくれたように目を伏せる七海の肩を叩き、高須磨とともに研究室へ向って走りだした。




