その6
天体を一望に見渡せる特殊なガラスドームの管制室に入ると、緊急アラームが鳴り響いていた。
『副校長先生! おはようございまーす!』
四人揃ってお辞儀をすると、副校長である武藤要人が口元の黒ひげに触れつつ鷹揚に頷いた。
「ふむ。『おはよう』ではなく、今は『こんにちは』の時間だがな」
軽い口調で訂正され、瑠璃は挨拶をし直すべきか悩む。と、武藤がこちらを見やった。様々な色の紙を持った先輩たちが入ってくるのが目に入り、瑠璃は足をとめた。
「副校長先生! 配置完了いたしました!」
先輩たちが創作ポットに入り武藤を見おろす。
「配色は考えてあるか?」
「はい。完了しています!」
「よし、でははじめなさい」
「はい!」
白い電子キャンバスへ紙をつけようとしているところを眺めていると、後ろにいた七海が怪訝そうな声をあげてきた。
「あ、小山内! こっちこっち!」
いつの満仁か創作している先輩たちを近くで見学していた城ノ介が手招きしている。これ幸いに走り寄ると、城ノ介がなぜか自慢げに胸をそらせてきた。
「せっかくだからしばらく見学していっていいってさ」
「あらそう? ……って鳥越先生! なんでここに?」
瑠璃は城ノ介の隣へいた細面の顔にスポーツ刈りのひょろ長い男性を見つめ、うめく。空色のシャツに黒いスラックスという爽やかなのか重いのかよくわからない出で立ちをしているその人は、担任の鳥越伸二だ。
「お前らの学年は手がかかるから、お目付け役として中等部から高等部へ来たんだよ」
軽く頭を小突いてくる鳥越を前に、瑠璃は口を尖らせた。
「……まあ、いい。せっかくだから先輩たちの仕事ぶりをよく見ておけ」
「はーい」
瑠璃は周囲に気持ちを悟られぬよう注意しながら創作ポットへ視線を移した。
女子の先輩一人が電子キャンバスの前に立っているのが見える。先輩が小さなチップを電子キャンバスの横へ差し込むと、大輪の花らしき幾何学模様の黒線が現れた。
「座標位置Aからいきます。Aの三。カラー番号三十六の赤。二等辺三角形」
ガラススクリーンには無数の星屑が輝いていて、今まさに危機が訪れているとはとても思えない。時折浮かぶ数個の白い点は、おそらく船外作業服を着た数人の展開部隊だろう。
「了解!」
女子の後ろにいた男子の先輩が、ハサミを使って赤いフィルム製の用紙を巧みに切り刻む。キャンバス前にいた先輩がそれを受けとりキャンバスへ貼ると、管制官から声があがった。