その5
「たとえばどんな?」
「ええっと。あんまり使われてないけど和紙素材のシートを使って、幾何学模様じゃなくてもっと細かい絵画みたいな作画とか……」
まだ曖昧な発想をどうにか形にしようと言葉を募ると、高須磨が小さく首を縦に振った。
「ふむ……、でもそれだとハサミをよっぽど上手く使わないといけないんじゃないかなあ……」
「それは!」
知らず一歩前に出ると、高須磨が首を傾げて話を促してきた。
「ん?」
「それは手でちぎってやる、とか!」
苦し紛れに紡ぎ出した言葉に、高須磨が唸った。
「ちぎり絵か!」
「それはいいね!」
声を弾ませる高須磨の言葉が嬉しく、瑠璃は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「頑張りなさい。応援しているよ」
優しく微笑まれ、胸が高鳴った。ドキドキと脈打つ心臓にひたすら困惑していると、そこへけたたましい音が耳をつんざいた。緊急アラームだ。
「これは……、今日はちょっといつもと違うみたいだ」
「え!」
緊迫した様子の高須磨の声音に、瑠璃は目を見開く。
「緊急事態だから失礼するよ!」
走りだそうとする高須磨を瑠璃が呼び止める。
「あ、あの、あたしも行きます!」
振り向いた高須磨の眉間には深い皺が刻まれている。
「君が?」
「何かできることがあるかもしれないし……」
胡乱げな表情のまま全身を検分された後、高須磨の表情が俄に明るくなった。
「君、特進科なのか……」
呟いた高須磨に頷くと、高須磨が肩で廊下を示した。
「よし! ついて来なさい。見学ぐらいならさせてもらえるかもしれない」
「ありがとうございます!」
礼を言って走り出そうとすると、背後から彼方の声がした。
「あの!」
「え?」
今一度足を止めた高須磨に、彼方が真剣な面持ちで尋ねる。
「俺たちも行っていいですか?」
彼方の問いかけに、高須磨は一瞬言葉を詰まらせた後、頷いた。
「……いいだろう。急ぐよ」