その4
「君たち、女子に乱暴は良くないんじゃないかな?」
落ち着いたその声に、男子生徒たちの動きが止まる。
「あ……」
「け、けど高須磨先生! こいつらが……!」
男子生徒たちが己の主張をしようと高須磨を見あげると、高須磨は深く頷いた。
「うん。君たちが猫を保護しようとしていたことはわかる。でも、誰かに手をあげる行為は暴力だ。何があっても、人を殴るようなことはしちゃいけない。それが男でも女でもだ」
「先生……」
高須磨の言葉に、男子生徒たちの肩が落ちる。
「……悪かったよ」
しばらくして、殴りかかろうとしていた男子生徒が瑠璃と目を合わせてきた。
「あたしも言い過ぎたわ。ごめんなさい」
素直に頭を下げ合うと、男子生徒たちは去って行った。
(助かった……)
内心で安堵の溜め息を吐いていると、高須磨が声をかけてきた。
「君、大丈夫かい?」
「あ、はい」
慌てて返答すると、高須磨が七海の腕の中を見遣る。
「この仔猫は僕が預かるよ」
「ありがとうございます」
手を差し伸べてくる高須磨に、七海が素直に仔猫を手渡した。
「それにしても君、勇気があるね」
仔猫を抱きながら、高須磨が瑠璃を見てくる。
「え? いいえ。夢中だっただけです」
よく無謀だとは言われるが、勇気があると言われたのは初めてで、瑠璃は目をしばたたかせる。
「そうか……」
にこりと微笑む高須磨に、何故か頬が熱くなる。突然の変化に戸惑いつつ高須磨の腕をもう一度見遣ると、高須磨が持っている本が目に入った。
「あれ? この本……」
「うん。僕のだ」
事もなげに首肯する高須磨を前に、瑠璃は目を瞠る。
「これ」
「知ってるのかい?」
少々驚いたように目を見開く高須磨へ、瑠璃は肯定する。
「あ、はい。ええっと、高須磨先生?」
「美術史の講師をしているんだ。結界展開の実習も手伝ってるんだけど。この本は好きかい?」
高須磨の問いに、瑠璃はなんとか平静よ装い答える。
「はい。あの……興味深いと思います」
「この本の著者、小山内幸利氏はこの天体結界展開技師の中でも並ぶ者のいない人間なんだが。この本に書かれたシールド強化法はまだ認められていないんだ。残念なことだ」
父、幸利の名前が出てくる度に、胸が痛くなる。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「あの、私、その本で言っている通り、切り絵では対処できないシールドの隙間を埋めることができる新しいシートと作画が必要だから、絶対実現させたいって思ってます」
自分の見解を告げると、高須磨が目を細めてきた。




