その6
「結論から言ってしまうと『まだわからない』っていうのが本当のところなんだ」
瑠璃は高須磨の言葉に拍子抜けして肩を落とした。
「じゃあ、まだまだ検査が必要なんだ」
「うん。だが、こいつが人類にとって有害かそうでないかはあと少しで解析できそうなんだ。だから小山内君にはぜひ立ち会って欲しくてね」
ほくほく顏で告げてくる高須磨に反して、瑠璃はどうしても皮肉っぽい気分が抜けない。
「あたしじゃなくて父が一緒にいたほうがいいんじゃない?」
拗ねて視線を外すと高須磨が苦笑した。
「僕もそう思って頼んでみたんだが、時間がないからと断られてしまったんだよ。今頃はまた宇宙に行ってるんじゃないかなあ」
少年のような澄んだ瞳で高須磨が言葉を紡ぐ。
「彼のような人物を本当の研究者と言うんだろうね」
「本人は『自分はただの職人だ』って言ってるけど」
肩をすくめて高須磨の話に水をさすと、高須磨が困ったように眉根を寄せ問いかけてきた。
「確か小山内班長は君が天体結界技師になることを反対していらっしゃるんだったね。けど、君だってお父様に憧れたからこの道を選んだんじゃないのかい?」
「違いまーす!」
瑠璃は内心の動揺を隠し力いっぱい否定する。だが、高須磨はまったく信じていないのか、くすりと肩を揺らした。
「違いますってば」
高須磨の態度へ半ばムキになって告げる。じっと高須磨を見据えると彼はまばたきを繰り返した。
「そ、そうかい? それはすまなかったね」
高須磨が気圧された様子で何度も首を縦へ振る。
瑠璃は、瑠璃ちゃん、と諌めるように袖をひいてくる七海の声へ応じ、ゆっくりと席に着いた。事の成り行きを見守っていたらしい鳥越が小さく咳払いする。
「まあ、ともかく問題はこの物質のことだな。実験はいつ行うんです?」
鳥越の問いに高須磨が表情を改めた。
「それなんですが、できれば今からさっそくやってみたいんです。記録するのを手伝っていただけませんか?」
「喜んで」
力強く頷いた鳥越がこちらを一様に眺めながら口を開いた。
「みんなも手伝ってくれるな?」
『はい』
瑠璃たちは首肯する。
返答を聞いた高須磨が、小さなジェットコースターのようにのたくった透明なパイプ装置の前へ立ち、横側の取手を開けた。




