その5
高須磨の後に従いたどり着いたのは、第二物質研究室だった。主に第十八物質要素オグジンが人体に与える影響を調べるための部屋だ。
日ごろ美術の歴史を教えている高須磨にはあまり関係の薄い場所のはずである。
「どうしてここへ?」
高須磨の瞳を探るように尋ねると、彼が決まり悪げに微笑した。
「実は僕、オグジンの人体に対する影響と、それを新しい用紙によってどう防ぐかを研究するのが専門なんだ。食いっぱぐれそうになってたから美術史教諭の募集に飛びついちゃったんだけどね」
「今は立派に兼任されてるじゃないですか。連日の徹夜仕事、本当にご苦労様です」
高須磨の言葉を継いで鳥越が一礼する。高須磨がいえ、と右手を横に振った。
「鳥越先生だって同じじゃないですか」
「いやいや、高須磨先生ほどでは」
謙遜し合う大人たちを前に瑠璃は腕を組む。
「もう! そんなこといいからさっさと本題に入ってよ!」
くだらないことにかまけている時間はないはずだ。仁王立ちして二人を睨みつけると、鳥越が呆れたような声をだした。
「さっさとって、お前なあ……」
少し憤慨した様子だがこの際関係ない。そっぽを向いて鳥越の言葉を聞き流していると、やっとのことで高須磨が本題を口にした。
「いや、すまなかったよ。みんなにきてもらったのは見てもらいたいものがあったからなんだ」
「何をですか?」
彼方が一歩前に進みでてまっすぐに高須磨を見る。
「うん、実はね……」
頷いた高須磨が巨大な冷蔵庫を開ける。
「『これ』のことなんだけど」
中から取りだしたのは拳台の保存カプセルだった。
「これは?」
瑠璃は保存カプセルを手に持ち中身を確認する。カプセルの中は当然のことながら透明で、肉眼では何も見ることができない。
横にいた彼方へ手渡すと、しばらくためつすがめつしていた彼方がおもむろに口を開いた。
「例の新しい物質要素ですね」
「え!」
驚いて高須磨を見ると、高須磨が正解とばかりに口元を綻ばせた。
「本来なら未確認のサンプルは一つのカプセルに保存することが義務づけられているんだけど、『何があるかわからないから、少しだけ別のカプセルに分けておいてほしい』って。小山内君、サンプルを持って帰ってきた君のお父様に助言をいただいてね」
嬉しげに話す高須磨の言葉に瑠璃は目を見開く。
「あんにゃろ……じゃなくて、父が?」
またあの人が先か。悔しさにスカートのプリーツを握りしめると、彼方がそっと腕を掴んでくれる。
「どうかしたかい?」
「え、えーっと、いえいえ」
瑠璃は感謝を込めて彼方の腕に手を添えると、目をまたたかせている高須磨にかぶりを振って問いかけた。
「この物質はいったいなんなのか、くわしい話を聞かせてよ、高須磨先生」




