その2
「上手くいくでしょうか……」
武藤の言葉に、依子が深く頷く。
「上手くいくはずです。いいえ、上手くいかせなくては! この反物質要素オグジンのシールド作戦で殺人物質ジグストを相殺しなくては、人類に未来はありません。それでは、これまでの研究で犠牲になった彼女がうかばれないもの!」
「それはそうですが……。やっとジグストの重力波にいくつかのパターン、重さに違いがあることを
突きとめただけで、実際はそのパターンもいくつあるか未知数じゃないですか」
武藤が懸念を伝えるも、依子がかぶりを振った。
「それでもまだないよりましです。献体になってくれたあの女性のお陰でオグジンを見つけそれぞれの波形に適合したシートとそれぞれを繋ぐリリン液を創りだすことができたんだから。あとはきっちりシート通りオグジンのシールドが完成すれば、あの巨大なジグストの隕石も大気圏で相殺できるはずです」
『ああ、その通りだ』
父、幸利の言葉が聞こえてきて、武藤は開きかけた口を閉ざした。
「シールド展開はじめてください!」
「了解! シールド発射します!」
『了解!』
『シールド展開! これから包みに入ります』
幸利の声が聞こえてくる。
「おばあさまのだいじなふろしきみたい」
「そうね」
瑠璃の言葉に、麻里安が微笑む。
『包み成功! 落とします!』
「あ!」
「待って! シートが一枚剥がれたわ! 今落としたら!」
『何を……なっ!』
『青のシールドが消えた! このまま落ちたら一発でオゾン層が消滅する! 太陽の放射線が世界中に降り注ぐぞ!』
「小山内女史! どうしたら! このままではすべてが焼けてしまう!」
「今もう一度修復して……だめだわ! ずれてしまう! あ!」
電子キャンバスが倒れる。
『届け! ……くそっ! 早すぎて追いつけない!』
「ああ……」
瑠璃、絶望する麻里安の落とした青いシートをちぎり、ずれた箇所に貼る。
「る、瑠璃?」
「おかあさん、泣かないで。あな、ないないしたよ?」
「し、シールドが……! シールドが、再度展開されました!」
『こちら展開班! 穴が塞がった! だが、消滅した分、すべて相殺はできていない』
「展開したジグストがこちらへ向かってきます!」
「どんどん加速して……うわ!」
管制官の言葉と同時に、麻里安が瑠璃に覆い被さってきた。
「瑠璃!」
『麻里安! 瑠璃!』
強い衝撃波は母の腕の中にいた瑠璃には届かなかった。宇宙船の中から、幸利の声が聞こえてくる。瑠璃はいきなりぐったりしてしまった母の中から抜け出て、母を呼ぶ。
「おかあさん!」
だが、母は目を閉ざしたままで何も反応してくれない。
「おかあさん? ねえ、おかあさん?」
必死で揺り起こすが、麻里安が起きる気配はなかった。
「なんでおきてくれないの? おかあさん、おかあさん!」
瑠璃は理由もわからずただ泣きじゃくる。足元に焼け焦げた電子キャンバスがころがっていて、綺麗なままの切り絵が転がっていた。