その13
朝になり、眠い目をこすりながら身支度をして七海とともにシミュレーションルームへと向かう。
「うー眠い……」
肩を鳴らし盛大にあくびをしていると、七海が眉間に皺を寄せてきた。
「瑠璃ちゃんたら何時まで起きてたの?」
「あー、四時半?」
少し迷った後正直に告げる。
「もう朝じゃない!」
案の定、怒号が耳をつんざいた。
「うー、あんまり怒鳴んないでよ。頭痛いんだからさあ」
ずきずきと痛む頭を押さえていると、横から声がかかる。
「瑠璃、徹夜したの?」
「あう……」
「あ、彼方君。おはよう」
七海が声を弾ませて朝の挨拶をした。心なしか、顔が上気して見えるのは気のせいではないだろう。瑠璃は頭がどうにも重いので、軽く手を挙げて応じた。なんとか顔を横に向けると、爽やかな出で立ちの彼方が見える。
「おはよう、七海ちゃん。瑠璃、これ」
彼方が七海へ向かい柔和に微笑む。言葉とともに差しだしてきた小さな白い箱を見て瑠璃は歓喜した。
「あ、頭痛薬。サンキュー、彼方。いつも悪いね」
「いいよ。慣れてるから」
白く四角いシートを腕に貼ると、シートがすっと消えていく。
「よっしゃ!」
これで万全だ。いつの間にか痛みも消えていることだろう。満足して彼方へ微笑んだ時、彼の背後から手を振る城ノ介が見えた。
「おおい! みんな、こっちこっち!」
「おはー。にっちゃん」
手を振ると城ノ介が赤い顔で嬉しげな表情を浮かべてくる。
「おはよ、小山内。今日もかわいいな」
「あーはいはい。それより今日のシミュレーションのことなんだけどさ……」
頭に手をあてお世辞を述べる城ノ介の言葉を適当にいなして話題を変えたが、本題へ入る前にシュンと自動ドアの開く音がした。
「はい、みんな集まってるかな?」
見知った声を聞いたとたん、体温が一気に上昇する。おもむろに視線を向けると、予想通り想い人である美術史講師の高須磨忠司の姿があった。
『おはようございます! 高須磨先生』
ほかの生徒たちとともに挨拶をする。が、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ? でも鳥越先生は?」
首をかしげて問うと、高須磨と視線が交わる。
「鳥越先生は急用で遅れてくるので今日は僕が代わりに来ました」
「そ、そそそそうなんですか……」
ばっちり目が合ってしまった反動で頬が熱くなった。慌てて隠そうと頬を手で覆っていると、横にいた七海が肘を突いてきた。
「やったね、瑠璃ちゃん」
「う、うん」
手で顔を覆ったまま何度も頷く。
(いいところ見せなくっちゃ!)
密かに気合いを入れていると、七海が話題を転換してきた。
「ところで瑠璃ちゃん。今日もやっぱりハサミは使わないの?」
七海の言葉に瑠璃は人差し指を立てて宣言する。
「もちろん! そのほうがよりしっかりした結界ができるはずだよ」
自信満々で答えると、後方で彼方がぼやいた。
「でもまだ実験段階だろう? 大丈夫かなあ」
「昨日だって上手くいったじゃん。大丈夫だってば」
「うーん」
腕を組み唸っている彼方にフォローしようとしていると、ふいに前方から声がかけられた。
「あなたたち、またシートをちぎって風景画でも描くつもりなの?」
近づいてきたのはクラスメイトの笹西昭美だった。家柄がいいらしくいつも取り巻きと贅沢自慢をしている女子だから、あまりお近づきにはなりたくないタイプなのだが。なぜかいつも自分たちを目の敵にしてくるので、かなり面倒臭い。
「なんだ笹西昭美じゃないさ。また何か文句でもあるの?」
仁王立ちして応えてやると、笹西が人を小馬鹿にしたような視線を向けてくる。
「大ありよ。この神聖な結界シミュレーションルームはね、お遊びのお絵かきをする場所じゃないのよ。独自性だかなんだか知らないけど綺麗な結界を展開できない理由にしないで欲しいわ」
鼻を鳴らして告げられた言葉を瑠璃は否定した。




