no.9
ある日、僕は懐かしい足音を聞いた。
ユナ?
ユナの足音?
真夏の太陽がぎらぎらと照りつけ、
蝉が狂ったように鳴いていた、午後のことだ。
僕は足音をもっとよく聞きたくて、
耳をぴんと立てて、目を閉じる。
でも、
蝉の音は途切れることなく、
僕の邪魔をする。
僕は、じれったく思いながら、
微かに聞こえる足音を注意深く聞いた。
足音が、
だんだん
近づいてくる。
懐かしい音。
少しかかとの辺りを擦りながら歩く、あの独特の足音!
大好きな、ユナの足音!!
不意にユナの足音の速度が上がった。
僕は居てもたっても居られず、
道路がよく見えるあたりで、何度もジャンプをする。
少しでも早く、ユナを見つけたいから。
僕にくっついている鎖は、
太陽の光を浴びて、
きらきらとひかり、
鉄と鉄がこすれあう音は、
まるで僕を祝福してくれているようだった。
「ライン! ただいま!! 」
ユナが息を切らして、家の門を開けた。
「早くラインに会いたくて、走ってきちゃった! 」
額にある大粒の汗は、太陽の光を浴びてきらきらと光る。
ユナのひまわりみたいな笑顔に、僕は尻尾を振って答える。
おかえり!
お帰り! ユナ!!
僕、いい子にして、待ってたんだよ!
会いたかったよ!
会いたかったよ!!ユナ!!
ユナは僕を抱きしめて、
頭をなでて、名前をたくさん呼んでくれた。
僕はうれしくて、たまらなくて。
ユナの胸の辺りに体をこすり付ける。
大好き!
大好きだよ!!
この大切なときを、僕は忘れない。
ユナに合えたこと。
それは、本当に僕にとって宝物だったから。
ねぇ、ユナ。
ユナが帰ってしまうとき、
ユナの靴を隠してしまってごめんね。
僕、どうしてもそばに居て欲しかったんだ。
靴がなければ、お外にいけないから、
僕のそばに居てくれるんじゃないかって、
そう、思ってた。
ごめん。
ごめんね、ユナ。
ユナを困らせるつもりは、なかったんだ。
ユナが大好きだから、
大好きすぎて、そばに居て欲しくて。
でもね、もう
わがままは言わないよ。
だって、ユナの困っている顔は、
見たくないから。
ユナ、ユナ、ユナ。
僕の大切なユナ。
こんな悪い子の僕だけど、
僕のこと、まだ好きで居てくれる?