あの戦い、今度は勝つ!(最終回)
「また、あの風景だな。」
ヨツユキは、思った。反旗を翻す、寝返る部隊が続出していた。
違うのは、左右両翼の陣地は、全く動揺がないこと、敵中に孤立しながら、戦い続けている部隊がいくつものあること、彼とイシュタルの後ろで、サラとサラナ他何人かが、項垂れて、
「敵の部隊からの寝返らせることができず、我が軍からの裏切りを阻止できず…申し訳ありません。」
と涙を流していること、半自動小銃、機関銃、大小火砲、皿に戦車までを揃えた分厚い予備隊が控えていること、勇者達の斬り込み隊が待機していることが異なっていた。
「違うわよ、全く。私は、数倍強くなっているわ!あなたもよ!」
イシュタルは、力強く囁いた。
「それに、今回は完全に予測していたわ。」
“そうとも言えない面もあるが。”
判断に迷った。“まだ、早いかもしれない。”予備隊の投入である。遅すぎても、早過ぎても、負ける。参謀達も、将軍達も迷っているようだった。“俺が決断しなければならないか?”イシュタルを見ると、彼女は黙って頷いた。ヨツユキも、肯き返した。
「全軍、突撃だ。」
シンカン帝国側は、ショカツは、それを十分予測していた。
「竜の陣形と夢幻の戦術を。」
と軍配を翳したという。それは、実に優雅な動きだった。
その時、既に、13段の陣を配していた。二人の軍は、前回と同様、それを突き破っていく。前回と異なるのは、その数がかなり多かったこと、その進行速度がはるから速かったことだった、前回と比べて。前回の反省点を修正したことから、兵力の数、近代兵器の数、質がはるかに上回っていたのだ。後装単発ライフル銃が親衛隊装備というのが最高だった前回に比べ、親衛隊最精鋭部隊は突撃銃装備という水準まで実現できたのだ。
「私の霞が晴れてはいく!こんな馬鹿な!」
女魔道士が叫んだ時、逆に彼女の目の前に霞が現れて、相手の軍が見えなくなった。
「馬鹿な?私の秘法の魔法を?ええい、こんなもの、直ぐ消してやる!」
しかし、それは消えることなく、ダダダという連続音と共に、周囲の兵がバタバタと倒れていくのが目に入った。
「お前だったか。前回のお返しだ。」
それが彼女の聞いた最後の言葉だった。
ヨツユキとイシュタルは先頭を進んだ。彼らの前で、魔獣も、ドラゴンも、切り裂かれ、燃え上がり、感電し、潰された。防御結界で守られているはずの陣に彼は躍り込んだ。彼らに、負けずと銃砲弾が炸裂し、抜刀隊が斬り込み、魔道士達が魔法攻撃を行う。それに呼応して、孤立して、風前の灯火だった部隊が反撃に転じていた。
「ぐわっ!」
自分が放った礫が、弾き返されて、自分に帰された女戦士が、血反吐を吐き出した。
「この魔女が!」
立ち上がろうとした時、胸に痛みを感じた。
「ブスは下がってなさい。」
イシュタルが、ロンギヌスの槍を突き刺していた。
「この淫乱売女!お姉様の仇!」
2人の女戦士が、大音声を上げて迫ってきた。1人の体が破裂して、体の断片が周囲に散った。ヨツユキが周囲、十数人を相手にしながら、イシュタルを援護したのだ。
「卑怯者!王族は卑怯者ばかりだ!」
「あら、さっきは、自分こそが、高貴な家柄の子孫だと言ってたんじゃないの?」
聖剣を持って斬り込もうとした女戦士は、ロンギヌスの槍を振るうイシュタルの前に、たちまち追いつめられた。
「賤しい人間は、早く消えなさい!」
イシュタルの槍が、彼女の胸を貫いた。
「リュウビ様は、人を平等に…。」
「だ~から~、高貴な家柄を自称するあんたらにそんなこと言う資格なんかないわよ!」
蹴りつけ、いったん出した槍で彼女の首を切り落とした。
「何とか、ここは勝ったな。」
「そうね。で、私はどうだった?」
「前回より数倍強くなっているよ。」
「あなたもね。」
2人は、寄り添っていた。素早く、シンカン帝国軍は、早い段階で撤退を始めていた。追撃戦になっているが、本隊は逃がしてしまった。108人いるという勇者の内、3/4を失ったが彼らは逃げることができた。
「これからは未知の領域だな。」
「勝つわ。」
そう言い切るイシュタルに唇を、ヨツユキは重ねた。直ぐにイシュタルが応じた。その時、彼らの周囲で叫び声と噴出する血が現れた。ほどなくして、数人の男女の姿が現れた。既に絶命した、単なる死体は大地に音をたてて倒れた。彼が張っていた防御結界の罠に嵌まったのである。これで、シンカン帝国の勇者は1/5以下になり、返り血で2人は汚れたが、取り敢えず2人にはどうでもよかった。