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再戦に向けて

 魔王は倒された。魔王城の奥深くから出てきた勇者一行を見て、その言葉を聞き、歓呼して応える将兵、王侯貴族、神官達の中で戸惑いを感じているのは、どのくらいいるのだろうか。イシュタルはそんなことを考えながらも、自然な感じで手を振り応えていた。“この女は、相変わらず役者だな。”

 偽物サラは、目立たないようにフードをかぶらせ、髪の毛を染料で染めさせているから、よく見なければ分からない状態だった。2人とも、記憶が肝心なところでブロックされている。黒幕は、大体分かっているものの、経路や彼らに取り込まれている人間が分からないのは手痛い。ただ、完全に分からないわけではないから、分かったことから類推していくこともできる。

「まずは一つづつ潰していくか。」

「このまま凱旋する?」

 前回は、そのまま二人だけで先に帰国して、機先を制するように王宮を掌握した。大量虐殺したわけではないが、力ずくだったし、反抗する連中、陰謀に加担したと思われる連中を粛清したから、それなりの数を殺してしまった。そのことが、自分達に兵を向ける大義名分の一つになっていたから、出来るだけ避けた方がいいかもしれないとヨツユキは考えていた。“少しでも悪い要素を消していかないとな。”

「併用しよう。サラ達がいるから、多少の時間いなくなっても、何とかなるだろう。今回は、王宮内にも、軍の中にも、ここに来ている部隊にも足がかりはつけることは出来たからな。」

「サラ達には、こちらでの工作をさせましょう。微笑んで、餌を差し出して、脅しましょう、あの子も、あいつも。」

 思案顔でそこまで言った後、艶を含んだ目になりながらも過ごした恥ずかしそうに、

「私達の婚約…結婚の…宣言は如何する?」

「隠れて…は面倒になってきたしな。」

 前回は、時を逸したようになり、そのまま二人で過ごすようになった。これも、二人への非難の材料に使われた。

「しかし、まず婚約解消が先だろう?」

「今回は、手順を踏んで、一応ね、そして素早く、ちゃんとやるわよ。」


「申し訳ありません。イシュタル様!ご不在の中あまりに寂しく、また、勇者様と比べて我が身の劣ることに悩み…。彼女には、罪はありません。わたくし一人を罰して下さい。」

「いいえ。私が、アブロ様をお慕いする心を我慢することができず、恋いこがれる身を押さえることができなかったからです。罪は、私にあるのです。どうか、私だけを罰して下さい。」

 凱旋したイシュタル王女とユウシャヨツユキの前で、イシュタルの婚約者、カソ公爵家嫡男とその愛人シア子爵家令嬢ラナが、彼女の前に飛び出し、ひれ伏しつつ、許しを乞うていた。

“女の方が数段役者だな。イシュタルの見る目はさすがだな。”ヨツユキは、無表情を装いながらも、感心していた。

 そのイシュタルは、これまた優れた演技力で、聖女の笑顔を浮かべて、

「愛し合う二人を、愛することで、どうして罰することができましょうか?それに、私も同様なのです。あまりに長い間戦いの中で勇者様と過ごしてしまいました。私達の心は、あまりにも強く結びついてしまったのです。体を許していないといえ、心は結ばれてしまったのです。アブロ様。あなたを裏切り、婚約を破棄せざるを得ない、わたくしこそ罪があるのです。お許し下さい。」

「イシュタル様に罪などありません。」

「そうですわ。わたくし達の罪まで許された寛大なお心、感謝申し上げず。今後、忠誠を捧げます。」

“せいぜい、お願いね。”“ないよりましな程度だが、その積み重ねも大事だしな。”この場のことは、事前に決められていた。

 帰還の旅の間に、転送魔法を使って、度々秘かに戻っていたのだ。あまり遠いと流石に消耗も大きいので、旅の後半になってからだが。

 そして、第一番に、イシュタルの婚約者のもとにいったのである。夜の寝室、予想通り、期待通り、ベッドの上では、激しい営みの真っ最中だった。終わるのを待つのは、二人とも難儀だったが、兎に角待ってやった。

 そして、睦ごとの会話が一段落するまでも待ってやった。ようやくその時がやってきたところで、声をかけた。その声で、慌てて声の方向を見て、驚いて、全裸のままベッドの上で二人は抱き合って固まってしまった。

“イシュタルとは対称的な女だな。“小柄で、金髪で、太っても、肥えてもいないが、ふくよかで、可愛い感じの女だった。

「いいのよ。婚約者以外の女と寝ていたからと言って、怒りはしないわ。私の追い落としを謀っていたことも、別に咎めないわ。」

 イシュタルは、妖しい微笑みを浮かべて言った。

「ぼ、僕が愛しているのは、君だけなんだ。これは、これは、その…なんだ…この女から誘ってきて、…そのだ…。」

 女は、“なにを、言っていっているのよ?“という顔だったが、なにも言わなかった。“女の方が賢そうだった。”

「みんな分かっているの、もう。でも、罰しなんかしないわよ。2人の仲も認めてあげるわ。悪いようにはしないって、約束もしてあげる。」

 甘~く感じる声で囁きかけた。

“さすがだな。”ヨツユキは思った。更に、その後で、女の方だけに、

「あなたが、見所があるから赦したの。彼ではなくよ。」

 彼女が勢いよく頷くのを見て、“女は、監視役に墜ちたな。”とヨツユキは思った。

 イシュタルの異母妹のウリエラ王女の元にも訪れた。彼女は自分の寝室に現れた2人に驚きながらも、即座に礼儀正しく、

「イシュタルお姉様。勇者様。魔王討伐の成功の報は聴いております。」

と深々と頭を下げた。それでも、顔色は蒼白になっていた。

「あなたが、私達の暗殺を図っている連中に加わっていたのは、知っているのよ。」

「そ、そのようなこと…誰がそのような嘘を、姉上様に申し上げたのでしょうか。讒言ですわ。勇者様なら分かってくれますわね?」

 それでも、動揺を最小限に抑えていた。“大したものだ。思ったよりなかなか…。”“なかなかやるわね。”

「過去のことは、気にしないわよ。私達が考えているのは、これからのことだし、あなたのことは、高く評価しているのよ。私達と共に、新しい世界を作りましょう、いや?」

 イシュタルは、聖女の笑顔を向けて尋ねた。“断れないじゃない!”と彼女は思いながらも、姉の言葉に魅力を感じた。“乗ったな。”“乗ったわね。”




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