どちらを選ぶの?
「サラ。あなたは何を言っているの?」
イシュタルは、声を抑えながらも、抗議の声をあげた。
「それは、…、やはり勇者の存在は、あのような異世界から召喚した者は危険です。魔王を倒し、力を消耗して、油断をしている時を狙ってが、一番…。」
“前回、前々回は、自信満々、立て板に水だったけど、今回、おどおどしているわね。”心の中では思っていたが、あくまでも驚いて風で、
「誰がそのようなことを…。勇者様を殺すなどということはできません。」
キッパリと言った。
「しかし、イシュタル様…。」
途惑うような素振りのサラに追い打ちをかけるように、
「サラ。」
イシュタルはじっと見つめた。サラは言葉が出なかった。“ここが勝負ね。”
「私と勇者との間の信義の問題があるけど、そんなことは横に置くわ。私がやってきたことは、きれい事だけではないわ、確かに。勇者様を失ったら、私はどうなると思う?大きな後ろ盾を失うのよ。サラ、私はね、あなたと勇者様とともに、大望を遂げたいと思っているの。幸福な国を作りたい。平和な国際関係を作りたい。」
「…。」
「勇者様とあなたがいなければ、だめなのよ。あなたも同じ。私や勇者様を殺したとしたら、どうなると思う?」
「姫様を?私は、そんな…。」
「例えばの話しよ。私とあなたの関係の深さは、誰もが知っているわ。私を裏切ったあなたを誰が信じる?用いる?約束の地位も与えられず、罪を着せられて殺されるか、捨てられるだけなのですよ。」
「あの方が…。」
“誰よ、あの方って?”
「私達とともに大望を夢見るか、惨めに捨てられるか、どちらがいいの?」
“少し強引だけど、取り敢えず効いているわね。”
真っ青の顔で、震えているサラを見て、イシュタルは思った。
「私は、王女様のことしか考えていません。」
大粒の涙流しながら、まるで泣き落としのように訴えた。彼女は最後まで、自分の考えを撤回するとも、自分に命じた者が誰なのかも言わなかった。
“やはりだめか。”
魔王は、戦線を縮小し、魔王城に兵力を集中していた。人間・亜人の連合軍が魔王城を囲み、攻城戦が始まった。そして突入する勇者ののチーム、
「勇者様。ここは我々が。魔王を倒して下さい。」
「分かった!」
魔王城の奥に、魔王との対決のため進む勇者。
ここまでは、前々回、前回と同様だった。
「勇者様。私も参ります!」
ロンギニスの槍を持ったイシュタル王女が叫ぶ。慌てて、止めるチームの面々。
「勇者様を召喚した責任者である私が、いかないでどうします?」
イシュタル王女は、皆を振りきって、勇者に従って奥に入っていく。
「勇者様、ご武運をお祈りしています。イシュタル王女様をよろしくお願いします。」
サラが頭を下げた。
「分かりました。命をかけても、魔王を倒して、イシュタル王女様を無事にお連れいたします。」
「勇者様が、魔王を倒せるように、命をかけて、お助けしますわ。」
二人は、皆にそう言い残した。
1度目はなかった。だが、2度目と同じ光景だ。
「王女様のご意志に任せます、と言ってロンギニスの槍を渡したわ。前回は、これで勇者様を、と言って手渡したけど。」
前回は、流れを変えることを考える余裕はなかった。今回は、試みたが、彼らの暗殺行動を阻止できなかった。
「まずは、魔王を倒すことだな。」
“魔王との提携は…、あの魔王では無理だな。”
「幹部の一人くらい取り込めればいいんだけど。」
イシュタルが彼の考えを読むように呟いた。
「余裕があればな。」
次々でてくる親衛隊を蹴散らしながら、奥様に進んだ。前回より余裕があると、二人は感じた。
「余裕じゃない、前よりも?」
イシュタルは、目の前の一人を聖槍で突き倒し、もう一人を魔法で火達磨にしながら、彼に笑いかけた。
「前と同じだしな、何もかも。少しは異なることがないか、注意してはいるが。それに、お前を援護することも、半減したしな。」
「あらそうだったの?道理でね。少し、がっかりね。自分だけでやっていたと思ったんだけど。」
「まあ、あの勇者並みには強くなっているよ。」
彼が慰めるように言うと、
「褒めてくれているの?」
「褒めている。」
二人は、魔王のいる奥の大広間に突入した。
そこには魔王がいた。
魔王は、3回目、全く変わらなかった。翼を持ったドラゴン顔の巨漢だった。彼の口からの炎を、ヨツユキは、片手で軽く薙ぎ払ってしまった。魔大剣を振りかざし、彼に迫った。1合、彼の聖剣とぶつかった。それだけだった。魔王の大剣は折れ、彼の防御結界と魔装甲、硬い皮膚を突き破り、彼の聖剣は魔王の体を切り裂いてしまった。
“1回目は、死闘を繰り広げたがな。2回目は、少しは手こずった…かな?”切り裂くと同事に発動した爆裂魔法で、魔王は内部から爆発を起こして四散した。イシュタルは、彼を背にして、彼の支援を受けて、魔王に加勢しようとする魔族達を退けていた。魔王を倒すと、一気に、二人を除いて、返す刀で倒してしまうと、
「おい、お前達。」
逃げずに、まだ剣を構える男女2人の魔族騎士に向かって、
「お前達に、これからの魔界を任せる。もう一人とともにな。私達とともに、全てが共存する世界を作るんだ。」
二人とも、
「?」
ということは顔だった。
「今は、このまま逃げろ。近いうちに私達は、その旗を揚げる。その時、馳せ参じろ。魔界を託される者になる方を絶対選べ。行け!」
半信半疑ながら、二人は背を向けて駆け出していった。
「あいつらでいいの?」
「最後まで逃げない忠誠心、戦いぶりも賢そうだったからな。」
「それだけ?」
「少しでも味方が増えれば、勝つ可能性はほんの僅かでも増える。味方が増えなくても、何かをやれば、何かが変わる。それだけだ。」
「まあ、いいでしょう。でも、女を増したい訳じゃないでしょうね?」
「盟約しただろう。それに、同志はお前独りだけだ。」
「まあ、信じてあげる。」
イシュタルは、ヨツユキに抱きついて、唇を重ねた。彼も、すぐそれに応じたて、舌を差し入れた。
「じゃあ、行きましょうか?サラ達のところに。」
「ああ、第1幕を終わらせよう。」