君を、あなたを必要としている…
「ギャー!」
ドラゴンは、断末魔の叫びをあげて地上に落下していった。
危うく地上に、道連れになって落ちるのを、間一髪で逃れた魔族騎士だったが、目の前に立っている男に戦慄した。中型より大きいドラゴンであり、訓練もしていたし、その資質も合わさって、下手な大型ドラゴンより実力がある。それに乗って操っているのは自分だという自負もあった。しかし、地上からの一撃で、自分の張っていた防御魔法を破って、ドラゴンを打ち落としたのである。さっきまで勇者相手に有利とも言える戦いを演じていたはずが、彼より見劣りのする男が割り込んできたと思ったらこれだった。
それでも、彼は直ぐに立ち上がり、魔剣に自己の魔力を全てを注ぎ込んで
斬り込んだ。一か八かだった。
魔剣ごと、魔鎧ごと斬られた。
「さすが、正式に認定された勇者様。」
その言葉は、皮肉を込めているごとが分かったが、ヨツユキは触れなかった。金髪で逞しい、それでいて甘くかつ頼もしさを感じさせる顔、男も女も魅力を感じさせる男だった。ヨツユキが召喚されていなかったら、勇者の一人として認定されたであろう戦士である。この程度の皮肉を許してやるべきであろう。
「イリン様。余計なことをしたかと思いますが、あなたなら十分倒せたとは思いましたが、出来るだけ早くすませたかったことと、つい興奮した自分を止められなくなってしまい…。申し訳ありませんでした。」
ヨツユキは、軽く頭を下げた。少しイリンは、見下すような視線を向けたものの、直ぐに会釈をした。あげた顔には、紳士的な装いがされていて、
「こちらこそ、勇者のご助成に感謝します。」
“まあ、前よりましな顔だな。”とヨツユキは思った。
「私は、こちらに呼ばれて何も分からない者です。あなたのような方の力を借りねば、何も出来ません。イシュタル王女様も、あなたを頼りにしているようですよ。」
彼の顔が輝いた。“おやおや?”
「それは本当ですか?」
“食いついてきたか。”
「たまたま、お話しする機会があると、必ずあなたのことを、話題にしていますよ。」
彼は、1度目も2度目も、2人を暗殺する側にまわっている。このようなことを言ってやれる余裕がなかったが。“この言葉がきいてくれるかな?”とはいえ、ヨツユキがいなければ、彼が勇者の称号も栄誉も待遇も得られるのだから、あまり期待は出来ないとも思った。“悩まして、良心の呵責を少しでもさせれればいいか。”
「これからも、お互いに頑張りましょう。」
「はい。勇者、様。」
ヨツユキが差し出した手を力強く握った。
「ダイタイカ!」
彼の剣の一閃で、火焔というより高熱線というものが放たれ、魔王軍の一隊の半ばが燃え尽き、指揮官と僅かな護衛が孤立する形になった。
「皆、勇者様が作ったチャンスを利用するのです。勇者様に、あなた方の力をお見せする機会です!」
イシュタル王女の激に、その一隊に勇者パーティーの戦士達が殺到する。
「勇者様。回復魔法を。」
聖女のサラが後ろから声をかけてきた。
「いや、私は大丈夫です。イシュタル様や他の者達に。」
「はい。わかりました。」
そう言って駈け出した。”あの表情には…。”
前々回の時は全く気がつかなかったが、前回は憎々し気な表情が隠れているのを感じたが、今は、見下している感じは相変わらずあるが、それはなかった、なかったように思えた。“今回は、まだ働きかけがないわけはないだろうが…。効果が上がっている?もう一押しすれば…。”と思いつつ、魔族の侵攻から守った獣人種のネコ耳族の町を見た。“あいつとの出会いはここだったな。どうするか…。”
勇者の一行に加わりたい、加わらせてほしいと長老達と個人から願いがあった。勇者一行のために、助けた礼をという暗黙の圧力があったのも事実だったが、食べ物や物資の提供より人手でという彼らの意思が合致した結果、戦士としての実力が、かなりある少女も含めて数人が加わることになった。