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出陣とともに陰謀が

 勇者の一行が出発した。華やかな出陣式。それが終わって、王都全体は、興奮が去り、けだるさが支配していた。王宮の一室で、パニャ妃、カソ公爵、カソ公爵の息子であり、イシュタル王女の婚約者アブロ、大臣の1人パフロ、デュポン伯爵、ガル伯爵が円卓を囲んでいた。

「出発しましたわね。」

 パニャ妃は、会議の開催のように言った。

「このままイシュタル王女が、魔王討伐の先頭に立ち、魔王が倒されると、イシュタル王女の権威は、どうしようもないほどに高まるでしょうな。」

 カソ公爵は、肯定とも否定とも云えないというような口調だった。

「国王は、ラファエロ王子を王太子にとも考えているようですが。」

 パフロが、皆を窺うように言った。

「あのような、母親の素性が賎しい男をですか?」

 如何にも不快そうな表情だった。彼女には、子供が生まれたばかりだった。男の子である。彼女は、彼を次期国王にしたいと、もちろん考えている。彼女の父も当然、孫が国王になることが嬉しくないはずはない。

「ウリエラ王女は、ラファエロ王子と最近、仲がいいようですよ。お付きの侍女からの話だと。」

 自分が聞きだした、と得意がるように言ったのはアブロだった。

「賤しい者どおし、群れているわけね。」

「彼らの周りに、集まってくる野心家もいますからな。奴らが、どういう知恵をつけているのやら。しかし、当面の相手はイシュタル王女ですな、彼らにとっても。」

 パフロは、やはり窺うように言った。

「あの性悪娘は、油断出来ませんからね。最近、従順な態度を見せるのですが、薄気味悪いことといったら…。」

「彼女の母親と、同じですからな。下手に勇者を取り込まれると、手がつけられなくなる。」

「最近は、勇者を侍らせていますわ、始終。」

 皆の視線がアブロに向けられた。彼は、それを楽しんでいるかのように、笑って、

「大丈夫ですよ。先日、十分可愛がってやりましたよ。勇者への不信感も、ちゃんと吹き込んでおきましたよ、たっぷり。」

 アブロは、あまり品のよくない顔を、みんなに向けた。彼の主観では、彼女は彼の下になって、ひたすら求め続けたことになっていた。“あの後、弁明のため頑張らなければならなかったが。分かっているんだから、いい加減にしてほしいものだが。それも悪くなかったが。あれで、からだは、いい女だからな。”イシュタルの痴態と愛人の痴態を、交互に頭に浮かべていた。

“一族の恥さらしの淫乱母娘め。”彼女の一族であるガル伯爵は思った。彼女が、一族の中心を牛耳っていることを、彼は我慢できなかった。

「今頃、誰と誰が陰謀を企んでいるのかしらね?」

 イシュタルが、話しかけた。二人は、互いの天幕を抜け出して、さほど野営地から遠くない木蔭で並んで座っていた。

「式神かなんかをおいておけるとよいのだが。そうもいかないからな。密偵は、おかなかったのか?」

「式神?何それ?密偵ねえ。一応、また放っておいてあるけど、前回も、前々回も役に立たなかったらわけだから…、より厳選したのも追加してはあるけど。」

「連絡のしようがないからな。お前あっての、お前の派閥だからな。」

「ふん。それで、…、それで、何か言うことはないの?」

 もじもじするようにしているイシュタルに、

「聞くことか?」

 とぼけているわけではなかったが、彼女にはそう聞こえた。言わぬ方がいいのでは、尋ねるのは彼女を傷つけるかもと思ってのことでもある。それに、尋ね方がそうなってしまいそうだったからだ。

「あの日、どのように抱かれたか、どのように感じたか、どんな喘ぎ声をあげたのかととでも聞いたらいいのか?」

“やっぱりこうなってしまったか。”

「酷い言い方ね。お望みなら、全部説明してあげましょうか、ゆっくりと?」

 それからしばらくの沈黙の後、どちらからともなく唇を重ね合った。

 前回は、互いの不信感を払拭することや強くなることで手一杯だった。あの日、全員を返り討ちにすることから、覇道への道を始めざるを得なかった。今回は、このパーティー全員を味方にしたい。スタートアップの段階で兵力を持ちたい、段階をできるだけ先に進めておきたかった。やってきたこと、今回はできたことが何処まで生きてきてくれるかだった、重要なことは。とはいえ、大したことはあまりできたとは言えない。接触する人間、亜人達に上下を問わず好感を持たせるように接したくらいだった。二人を巡る陰謀や例えばサラが陰謀に組したのかどうかも、まだ判明していなかった。

「前回、拷問をかけてでも、白状させておけばよかったわね。」

 そんなことを言うイシュタルに、“変わっていないな、本質は。”ということで安心する自分を不思議に思いつつ、“あの時、怒りに燃えて、即殺したのはお前だろう。”と言うのを押さえた。

「要所要所に信頼できる者達を、送り込んではいるんだけどね。万一の時の連絡ルートも整えたんだけどね。それは前回でも、前々回もやっていたのよね。結局、役にたたなかったのよね。何とか、今回は、増やしたけれど、正直、危険を知らせてくれば、御の字ね。」

 それでは、大して役に立たない。“このパーティーの中から、少しでも寝返らせることができないか?”


 

 

 

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