プレステぇぇぇ~、またはシマムラぁぁぁーッ!
何から話そうかしら……。
若い人は知らないだろうが、元SMAPの中居正広さんは、『私服のセンスがダサい』キャラの烙印を押され、イジられていた時期がある。
曜日レギュラーだった公開収録番組で私服姿で再登場、スタジオ内の失笑を前に「なんだべッ! いいじゃん! おかしくないべ!」と、よく動揺していたものだ。
ボク的には「カッコよくはないな」と思ったものの、どこがおかしいと言語化できないし、観客の反応も「テレビ番組だからオーバーにリアクションしてるんだろ」ぐらいの目で視ていた。
同時に、「センスのズレてる人っていうのは、そのズレは理解不能なものなんだな」と中居正広さんの態度に学んだ。
それが──今や、我が身だ。
一年近く前に、スウェットの上下を買った。
ボクはオシャレに興味は無い。
今さら、女のコとデートする予定も無い。
ワイワイと大勢で呑みに行くような男でもないし、ボクが私服に求めるのは「スッポンポンで出歩いて警察に補導されないこと」ぐらいなので、冬場は数着のスウェットをローテーションして着ているだけである。
で、1着ダメになったから新しいものを買おうと思ったのだ。
正直、ドラッグストアで冬に売ってる『上下で1000円』で充分だった。
ただ、近所にシマムラがあるのを知って、「安さが売りのお店だし、同じ値段でも少し良い品かも知れない」ぐらいの気持ちで店に入った。
売り場は広い。
スウェットの場所を捜すのもメンドーくさい。
ボクは手っ取り早く店員に訊くことにした。
「スウェットって、どこにありますか?」
「スウェットをお捜しですか?」
「ええ、“あの辺”って教えてくれれば1人で捜しますから……」
しかし、店員の女性はボクの言葉が終わらぬうちに行ってしまい、一揃いのスウェットを手に戻って来た。
一般的な灰色のスウェット。
ただ、上着の胸に大きくプレイステーションのマーク。
なんか、イヤだった。
その理由は言語化できなかったから心の中に浮かんだのは、「いや、ボク、別にゲーム好きってわけじゃないし」程度だった。
値段は3000円。
ま、安売りじゃない通常の相場は、それぐらいなのかも知れない。
いや、ここはシマムラだし、何かコラボしてるスウェットなら、通常ならもっと高い相場なのが安く売られてるのかも知れない。
でも、ボク的には無地の安物で構わないのだ。
「え? 他に無いですか?」
「すいませーん。 この時期だから他のは売り切れてしまってて……」
店員のおばさんは、ボクの目をまっすぐに見て言った。
「はぁ……」
出直すのもメンドーなので購入。
これが、なんとも居心地の悪い結果になった。
寮で同僚とすれ違うと「え? ちょっと待って? 買ったん?」と質問され、「プレステって……」と失笑。
「アハハハハ、ちょっと撮らしてや」とスマホで撮影する同僚もいた。
こんなことが、相手を代えて数度。
そして、今年である。
数週間前から、ボクはスウェット生活をしている。
そして、去年の再来である。
去年のボクの姿を知ってる同僚は「あ、プレステや」と面白そうに声を挙げ、今年からの同僚は失笑する。
今年も、すでに1度、スマホで撮られた。
誰だったろう?
ポツリと呟いた。
「そー言えば、プレステの初代って灰色でしたっけ」
もしかしたら彼らにとってボクは、“プレステのロゴを着ている男”ではなく、“プレステのコスプレをしている男”なのかも知れない……。
いちばん困ったのが、数日前。
陽もずいぶん暮れて暗くなり始めた頃、そんな時間になぜだか1人で歩いている5歳ぐらいの男の子を歩道で追い抜いた。
もしかして、彼は心細くて話す相手がほしかったのかも知れない。
トコトコトコと小走りに追いついて話しかけてきた。
「なあなあ、それ、プレステやろ?」
こんなご時世である。
幼い子供が知らないおじさんと歩いていたら、変な疑惑を持たれるかも知れない。
たまたま男の子の知り合いのオトナが通りがかったら、変な疑いを持ってケンカ腰で何か言ってくることだってあり得る。
かと言って、ボクに幼い子どもを冷たく突き放すことはできない。
「なあなあ、なんで知ってると思う?」
「ボク、スゴいやろお?」
「ボクもプレステ持ってんねんでぇ」
「パパとなぁー、ようゲームするねん」
そんな男の子の言葉に、突き放さぬよう、かと言って盛り上がらぬよう、そして親しく話しかけてるようには見えぬよう、内心は心臓バクバクで「へぇ」「そうなん?」「ほぉー」と当たり障りのない答えを返した。
男の子は十数メートル並んで歩いて、大きなマンションの入り口で「じゃあなぁ、バイバイ」と走って去っていったが、ドッと疲れた。
そして一昨日。
バス停までの道、スーパーの横を歩いていたら、掃除のスタッフらしき人がボクをジーッと見てくる。
ボクは「あれ? 顔見知りだったかな?」とペコリ。
相手もペコリ。
「でも、このスーパー、顔を覚えられるほどは利用してないのになぁ……」と考えてて、気づく。
一昨日の朝は肌寒かった。
「仕事先で脱げはいいや」とスウェットの上着を1枚、重ね着してたのだ。
プレステのマーク入りのを。
いやいやいやいや、ボクの考えすぎ、被害妄想、自意識過剰かも知れない。
それでも、なんだかモヤモヤして誰かに何か言ってやりたいけど、誰に言えばいいのかわからないし、言葉にならない。
ただ、ただ、1人だけ訊きたい人がいる。
あの時の店員のおばさん。
ホントに、ホントに他に無かったんですか?
もしかして、売れ残りを始末できると思ったんじゃないですか……?




