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第32話 緻密と散漫

 目は閉じ、血色のないペイシェント。

 一時的に全ての機能をストップする……。


「私がその時間を作ります」

 紗良さんは、強い瞳を向けてそう言った。

「……仮死状態、か」

 圭は、その様子を見ながら呟くように答えると、紗良さんにまた視線を向けて訊く。

「どのくらい持たせられる? 紗良」

 圭の問いに、紗良さんは自信を持って、はっきりと答える。

「いいとおっしゃるまで」

 紗良さんの言葉に、圭が笑みを浮かべた。

「はは……参ったね。流石、間木先生の……」

「柯上先生です」

「え……?」

 圭の言葉に被せて言った紗良さんの言葉に、圭だけでなく、僕も驚いていた。

 この呪法は教わった事などなく、そんな話も聞いた事がなかった。

 圭も知らなかった事を、紗良さんが……。

「紗良……」

 どういう事かと訊ねる圭に、紗良さんは話を始めた。


「これは塔には無いもの……柯上先生が父に託したものです。私はそれを受け継ぎました」

「新たに生まれるブリコルールは、個人主義者だと排除される……間木先生も君も……それをずっと隠し通してきたのか……」

「はい」

「紗良……どうして……もし見つかったら……父さんは一体何を考えて……」

 圭の心配も当然だ。新たな呪法、それも人体に特化する呪術を塔が知る事になっていたとしたら、こんな事になるより以前に、危険に晒されたかもしれない。

 だけど紗良さんは、そんな心配は無用というように、不安な顔など見せてはいなかった。

「見つかるはずがありません。例え見つかったとしても、機能する事を重視している塔には必要のないものです」

「使う事のないもの……か。そうか……そうだな」

 圭は、溜息混じりにそう呟いた。

 呟いた後、圭は何か考えているようだったが、少し伏せた顔を上げて、紗良さんに答える。

「じゃあ……紗良。ここにいるペイシェントたちを頼む」

「はい」

 紗良さんが他のペイシェントたちへと向かった。

「待ってくれ」

 侯和さんの声が、紗良さんの動きを止めた。


「全ての機能を止めるという事は、来贅が持っている彼らの心臓も停止するという事か?」


 ……確かに、その疑問は僕も持っていた。

 もし、その動きが止まったら、来贅には直ぐに分かる事だろう。

 心臓を取り出し、握り潰されでもしたら……。

 僕は、そう思った瞬間にぞっとした。

 侯和さんは立ち上がると、紗良さんの前に立つ。

「それは……」

 紗良さんは、侯和さんの問いに少し困惑しているようだった。

 ……止まるのか、やっぱり……。

「圭……この方法は……」

 僕は、圭を振り向いた。

 僕の不安を他所に、圭はクスッと笑みを漏らした。

「圭……」

 圭は、笑みを見せたままの表情で、こう言った。


「正解だ」


 圭の笑みに、差綺の笑みが重なった。

「差綺……」

 僕の頭の中に、差綺が言っていた言葉が走った。


 『僕、あんたの嫌いな呪術師だから、あんたが嫌う呪術しか使わない。小細工ってやつ、ね?』


 差綺は、指先で彼らに繋げた網を弄びながら、僕に目を向けた。

「一夜。もう一度、答えた方が良かったかな?」

「そっち……だったの……?」

「うん、そっち。先読み過ぎたんじゃない?」

「いや……そうじゃないだろ……差綺」

 そう言いながら、苦笑する僕だった。

「ホントにいつの間に……」

「嫌だな、一夜。いつも言ってるじゃないか」

「そうだったね」

 差綺の指先に絡む糸は網を作って、ペイシェントたちに張られている。

 仮死状態になり、動きを止めたペイシェントも、全てにだ。

 紗良さんに術を掛けられていないペイシェントに張られた網は黒く、術を掛けられたペイシェントは赤く、黒く色を変えていた。

 僕は、安心しながら、圭と目線を合わせた。

 圭は頷くと、侯和さんに伝える。

「もう差綺の手の中です。来贅は手を出せません」


 差綺は、クスリと笑うと、以前にも言っていた言葉を口にした。


「誰も気づけない隙に……張っているんだからさ。いつの間にかそこにあるって、ね?」

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