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第31話 静と動

 塔に行く。

 そこにしか答えはないだろう。

 みんなの僕を見る目線は、僕の決断を納得していた。

 だがそれは当然、行き着く答えであって、それはそうだとみんなも分かっているからだ。

 ただ……。

 納得はしてはいるが、そこには大きな問題ある事も皆、分かっている。

「だけど一夜……」

 そう言いながら、僕に向ける圭の強い視線は、塔の中で圭が見てきたものがどれ程のものなのかを知らせるようだった。

「お前はどうするつもりだ?」

 その問題をどうにか出来る術は、誰が持っているだろう、そう訊いているようだった。

 僕は、地に横たわったペイシェントたちに視線を落とした。


 ……命を預けた。


 彼らは口々にそう答えた。

 それは、僕たちの中でも丹敷が一番よく知っている事だろう。

 最終的に心臓の鼓動が止まれば、そこで死は確定する。

 その鼓動が止まるまでは、生は保障される。

 来贅も言っていた事だ。

 来贅の中から、無事に取り戻す事が出来るかどうか……それが問題だった。

 奴の行動次第で、生死が決まる。

 そしてもう一つ。

「差綺……」

 僕は、差綺へと視線を向けた。

 差綺は、張り巡らせた網を弄ぶように、指に絡ませていた。

 差綺に答えを求める僕だったが、差綺がどう答えるかは分かっていた。


 そんな僕の心などお見通しだと、差綺は静かに笑みを見せた。

 ゆっくりと瞬きをする差綺は、ふうっと息をつくと、僕に視線を戻す。

 差綺の赤い瞳がキラリと光った。

「同じだよ、一夜。もう一回、聞きたい? その答え」

「……いや」

 ……やっぱり……そうか。

 そう分かっていながらも、深い溜息が漏れた。

 圭も分かっていたようだ。圭の表情は翳っていた。


「同じって……なんですか……?」

 紗良さんが不安そうに僕に訊いた。

 僕は屈むと、僕の足を掴んだままのペイシェントの手を取りながら、紗良さんに答える。

「最終的に心臓の鼓動が止まれば、死が決まる……彼らの心臓は、来贅が持っています。それを無事に取り返したとしても……難しいかもしれません」

「心臓を持っているって……取り返したらなんとか出来ないのでしょうか? 治療は再開出来ますよね? 取り返す方法があればですが……」

「心臓を取り返し、無事に戻せたとしても……」

 僕は、苦痛な思いに歯を噛み締めた。

「一夜さん……?」

「病を患っている彼らは、心臓が戻った瞬間に、病の悪化速度が急激に速くなるんです」

「そんな……それじゃ……どっちにしたって助けられないという事ですか……?」

 僕たちの目線は、ペイシェントたちを見ていた。


 侯和さんの悔しそうな舌打ちが聞こえた。

「侯和……」

 その様子に心配になったのだろう。貴桐さんが侯和さんに近づいた。

「……あの塔に一体、どれだけの数のペイシェントがいる? 一時的に代わりになるものを模して作っても、数が多過ぎて間に合わない。ここにいる人数だけでも手が一杯だ。全員となると……無理がある。間に合う訳がない」

 侯和さんは、悔しさをぶつけるように拳を地面に叩きつけようとした。

「侯和っ」

 貴桐さんが、侯和さんの手をグッと掴んで止めていた。

「……貴桐……」

「やる前に怪我したら、一人も助けられねえだろーが」

「……ああ……そうだな……」

 目を伏せる侯和さんは、落ち着きを取り戻すように深呼吸を繰り返した。


「……それなら……」

 紗良さんがゆっくりと立ち上がった。

 ……紗良さん……? なんだか様子が少し変わったような……?

 僕は、紗良さんが診ていたペイシェントに目が向いた。


 目が……閉じている。

 ペイシェントの顔色に血色は見られなかったが、彼女が何を決断したのかが、それを見て分かった。

「紗良さん……もしかして……その為に……?」

 僕の言葉に紗良さんは、頷いた。

「自分の目で見させて頂いて、この方法は有効ではないかと確信出来ました」

「紗良……お前……」

 圭は、紗良さんの行動に少し驚いていたが、僕は紗良さんが向ける強い瞳に、笑みが浮かんだ。


「一時的に全ての機能をストップすれば、時間は作れますよね? 私がその時間を作ります」

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