表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/161

第30話 希望と絶望

 『人の命こそが私に返る。だから私が『主』なんだよ』


 妙な感覚が僕の中に走った。

 宿木の枝は折れた。この……僕の手で。

 来贅を……『主』を倒せる力が、僕にあると思っていいのだろう。

 そして来贅を倒す事が出来たなら……新たな『主』は……。

 僕は、そんな思いを払うように、頭を横に振った。

 主になんて……なろうとは思っていない。僕はただ……。

 地に倒れたまま、僕を恨めしそうに見るペイシェントたちの目に、来贅の不敵に笑う顔が浮かんだ。


 『お前たちが塔を潰すなら……私たちも全て……殺すという事だ』


 彼らが望むもの……それが塔であり、来贅そのものである事を否定する事は、死を突きつけるのと……同じ……だと……そう言わざるを得ないのか。

 頭の中で僕は、否定を繰り返す。

 それでも来贅の言葉が追い掛けてくる。


 『精霊使いの継承者……どのみちそれが完全なものになれば、お前もあの塔にあるものを求める事になる……私と同じだ』


「……やめろ」

 来贅の言葉が離れない僕は、頭を抱えた。

「一夜!」

 圭が大丈夫かと肩を掴んだ。

 それでも僕は、頭を抱えたままで。

 追い続けてくる言葉に苛立ち、叫ぶしかなかった。


 『だから……お前も私に返る運命……いや、宿命か』


「やめろーっ……!」

 叫んだ瞬間に、強い風が舞い上がった。

「一夜っ!」

「おいっ! 一夜っ!」

 圭と貴桐さんがしっかりしろと、僕の体を二人で抑える。

 ……力が……暴走してしまいそうだ。

 僕の感情で、僕の中にある力が動く。

 ……綺流……なのか……?

 頭を垂れ、肩で息を切る僕は、自分でもしっかりしろと冷静さを取り戻そうとした。

 だが、倒れたペイシェントの手が僕の足を掴んで、虚ろな目を向けて言った言葉に息を飲んだ。


「ああ……蒼い瞳に白い髪……なんだ……『先生』じゃないですか。『先生』なら……助けられるでしょう……? ねえ……『先生』」

 ……先生。

 倒れた他のペイシェントが、圭の足を掴んで言った言葉も同じだった。


「『先生』……助けられるでしょう……? ねえ……『ケイ先生』」

 その呼び名に圭は、悔しげに顔を歪めて唇を噛んだ。

「早く助けて下さいよ……上階の『先生方』でしょう……?」

 あちこちからまた聞こえ始める声。その言葉は、まるで僕たちを追い詰めるかのように『先生』と繰り返した。

「『先生』に命を預けるしか……方法はないんですから……」

「預かった命……ちゃんと返して下さいよ」

「『先生』」

「返して下さいよ……『先生』」

 彼らの言葉が、体に纏わりつくようだった。

 …… 一体……どう返せばいいというんだ。

 彼らの命を繋いでいるものは、来贅の中にある。

「……圭……」

「一夜……」

 顔を見合わせる僕と圭は、どうすべきか考えていた。


 これという答えが見つからず……いや……選択する答えは一つしかなかった。

 僕は、グッと手を握り締めた。

 悔しさが込み上げたが、そんな思いは直ぐに払拭した。

 真っ直ぐに上げた僕の顔を見る、圭や貴桐さんたちの目線が、僕の答えを後押ししていると感じる事も出来たが……。


 僕は、強い目線を向けたまま、はっきりとした口調で言った。


「塔に行く」


 込み上げた悔しさを直ぐに払拭出来たのは、僕の中で静かに響いた声が、僕にその答えを急かしていたからだ。


 『答えは……決まりましたね……?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ