表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/161

第27話 亜種と同種

 貴桐さんの言葉で、笑みを浮かべる僕たちだったが、侯和さんだけが表情に翳りを見せていた。

 侯和さんは、誰にも視線を向けず、宿木を見つめる。

 そんな侯和さんに気づいたのは、僕だけではなく、貴桐さんもだった。

 一度倒した宿木を復活させるように力を見せた貴桐さんは、侯和さんに思うところがある事をきっと知っていた事だろう。

 宿木を見つめ続ける侯和さんを、貴桐さんはじっと見ていた。きっと侯和さんの反応を見ているのだろう。

「サブスピシズ……か、貴桐」

 暫くの間、宿木を見つめた後、侯和さんはそう呟いた。

 貴桐さんは、ようやく口を開いたかと、侯和さんに言葉を返す。

「分かっているなら、なんだ? 侯和。言いたい事があるなら、はっきり言えばいい」

 ……サブスピシズ。

 宿木は、そこに存在する樹木に寄生する。

 宿主となる樹木は、同じとは限らない。樹木が違っても宿木は同じ宿木、だが……。

「この木はオークだろ……お前たちが倒した宿木とは別物だ。だから……葉の形も実の色も違う」

 宿主である樹木は別でも、同じ宿木を宿す事もあるが、侯和さんが言っている事は同種に分類されるかどうかという事だ。

 宿木と言ってもこの木に宿った宿木は、侯和さんが言ったように葉の形も実の色も違う。

 宿主の樹木が違っていても、同じ葉の形で同じ実の色ならその宿木は同種だが、異なるならサブスピシズ……この宿木は亜種であるという事だ。

 侯和さんは、長い息をつくと、貴桐さんを振り向いた。貴桐さんは無言のまま、侯和さんの目線を受け止めていた。その表情は少しの笑みを交えていて、侯和さんの言葉を満足しているようだった。

「……それで?」

 貴桐さんは、侯和さんに次の言葉を促した。

 侯和さんは、また長い息をつくと、目線を下に向けるように頭を下げたが、直ぐに顔を上げた。

 そして貴桐さんに目線を戻すと、口を開く。

「……なんでいつも黙ってんだよ、貴桐」

「お前が訊かないからだろ。一人で抱えて、一人で答えを出したがる。お前がいつも思っている事は一つだけだ。それを大事に抱えて、悲観的になるのは自分が出来る唯一の償いか?」

「……何の事だ」

「お前だけじゃないんだよ、奪われたって思ってんのは」

「貴桐……」

 貴桐さんと侯和さんは、互いの目を真っ直ぐに見合った。

 少し緊迫したような空気感がそこにはあった。

 ……貴桐さん……侯和さん……。

 僕たちは、二人の様子を見ているだけだったが、貴桐さんが侯和さんに何を求めているのかは感じ取れていた。それは侯和さんだって分かっている事だろう。


「本当に守りたいと思うなら、隠す事も必要なんだよ、侯和」

「……お前……いつも。知らないフリして全部、分かってるんだよな」

「タイミングってあるだろ?」

 貴桐さんの言葉に、侯和さんは苦笑した。

「オークに寄生した宿木は、最も神聖視される。そこに宿った力も、最も高く、強い事だろう」

 侯和さんは、真剣な目で貴桐さんを見ながらそう言った。

「だから?」

「宿木の枝は折られた……そしてお前たちは全ての宿木を倒すと言った。残っていたんだろ、いや……お前の事だ、残したんだろ、その種を。種がある限り、いつでも……」

「ああ。いつでも自由になれるからな」

 侯和さんの言葉を遮って、先に続くだろう言葉をはっきりと答えた貴桐さんに、侯和さんはまた苦笑を見せた。

 ……いつでも……自由に。

「来贅が手にしたのは、オークに宿った宿木か。その宿木は来贅に倒され、倒したくてもその枝にもう触れる事は出来なかった。だからなんだろ……」

 貴桐さんと侯和さんが向け合う真剣な強い瞳に、僕はその中でも貴桐さんの強い思いを知る。

 貴桐さんは、新たに宿った宿木へと手を伸ばした。

 満たされた坏から、光の粒となって雫が落ちる。

 弾けて、それでいてゆっくりと舞い広がる光の雫は、僕たちの体に戯れるように踊る。

 貴桐さんが掴んだ宿木の枝は、『主』を倒す為の挑戦状だ。

 だが、その枝を折る事が出来なければ、敗北が決定する。


 貴桐さんの力に(しな)う枝。

「俺の覚悟は、同じだと思ってるよ。お前が大事に抱えた思いも、同じだと……な」

 貴桐さんの手に更に力が加わり、枝の軋む音が聞こえた。

「……ああ」

 侯和さんは頷くと、貴桐さんが掴む枝へと手を伸ばした。

 その行動は僕たちも同じだった。

 圭も咲耶さんも等為さんも可鞍さんも、差綺も丹敷も、そして紗良さんも宿木の枝を掴んだ。

 光の粒がどんどん数を増し、眩しいくらいだ。


 折れなければ、敗北は決まる。

 僕は、その瞬間に小さく息を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ