第27話 亜種と同種
貴桐さんの言葉で、笑みを浮かべる僕たちだったが、侯和さんだけが表情に翳りを見せていた。
侯和さんは、誰にも視線を向けず、宿木を見つめる。
そんな侯和さんに気づいたのは、僕だけではなく、貴桐さんもだった。
一度倒した宿木を復活させるように力を見せた貴桐さんは、侯和さんに思うところがある事をきっと知っていた事だろう。
宿木を見つめ続ける侯和さんを、貴桐さんはじっと見ていた。きっと侯和さんの反応を見ているのだろう。
「サブスピシズ……か、貴桐」
暫くの間、宿木を見つめた後、侯和さんはそう呟いた。
貴桐さんは、ようやく口を開いたかと、侯和さんに言葉を返す。
「分かっているなら、なんだ? 侯和。言いたい事があるなら、はっきり言えばいい」
……サブスピシズ。
宿木は、そこに存在する樹木に寄生する。
宿主となる樹木は、同じとは限らない。樹木が違っても宿木は同じ宿木、だが……。
「この木はオークだろ……お前たちが倒した宿木とは別物だ。だから……葉の形も実の色も違う」
宿主である樹木は別でも、同じ宿木を宿す事もあるが、侯和さんが言っている事は同種に分類されるかどうかという事だ。
宿木と言ってもこの木に宿った宿木は、侯和さんが言ったように葉の形も実の色も違う。
宿主の樹木が違っていても、同じ葉の形で同じ実の色ならその宿木は同種だが、異なるならサブスピシズ……この宿木は亜種であるという事だ。
侯和さんは、長い息をつくと、貴桐さんを振り向いた。貴桐さんは無言のまま、侯和さんの目線を受け止めていた。その表情は少しの笑みを交えていて、侯和さんの言葉を満足しているようだった。
「……それで?」
貴桐さんは、侯和さんに次の言葉を促した。
侯和さんは、また長い息をつくと、目線を下に向けるように頭を下げたが、直ぐに顔を上げた。
そして貴桐さんに目線を戻すと、口を開く。
「……なんでいつも黙ってんだよ、貴桐」
「お前が訊かないからだろ。一人で抱えて、一人で答えを出したがる。お前がいつも思っている事は一つだけだ。それを大事に抱えて、悲観的になるのは自分が出来る唯一の償いか?」
「……何の事だ」
「お前だけじゃないんだよ、奪われたって思ってんのは」
「貴桐……」
貴桐さんと侯和さんは、互いの目を真っ直ぐに見合った。
少し緊迫したような空気感がそこにはあった。
……貴桐さん……侯和さん……。
僕たちは、二人の様子を見ているだけだったが、貴桐さんが侯和さんに何を求めているのかは感じ取れていた。それは侯和さんだって分かっている事だろう。
「本当に守りたいと思うなら、隠す事も必要なんだよ、侯和」
「……お前……いつも。知らないフリして全部、分かってるんだよな」
「タイミングってあるだろ?」
貴桐さんの言葉に、侯和さんは苦笑した。
「オークに寄生した宿木は、最も神聖視される。そこに宿った力も、最も高く、強い事だろう」
侯和さんは、真剣な目で貴桐さんを見ながらそう言った。
「だから?」
「宿木の枝は折られた……そしてお前たちは全ての宿木を倒すと言った。残っていたんだろ、いや……お前の事だ、残したんだろ、その種を。種がある限り、いつでも……」
「ああ。いつでも自由になれるからな」
侯和さんの言葉を遮って、先に続くだろう言葉をはっきりと答えた貴桐さんに、侯和さんはまた苦笑を見せた。
……いつでも……自由に。
「来贅が手にしたのは、オークに宿った宿木か。その宿木は来贅に倒され、倒したくてもその枝にもう触れる事は出来なかった。だからなんだろ……」
貴桐さんと侯和さんが向け合う真剣な強い瞳に、僕はその中でも貴桐さんの強い思いを知る。
貴桐さんは、新たに宿った宿木へと手を伸ばした。
満たされた坏から、光の粒となって雫が落ちる。
弾けて、それでいてゆっくりと舞い広がる光の雫は、僕たちの体に戯れるように踊る。
貴桐さんが掴んだ宿木の枝は、『主』を倒す為の挑戦状だ。
だが、その枝を折る事が出来なければ、敗北が決定する。
貴桐さんの力に撓う枝。
「俺の覚悟は、同じだと思ってるよ。お前が大事に抱えた思いも、同じだと……な」
貴桐さんの手に更に力が加わり、枝の軋む音が聞こえた。
「……ああ」
侯和さんは頷くと、貴桐さんが掴む枝へと手を伸ばした。
その行動は僕たちも同じだった。
圭も咲耶さんも等為さんも可鞍さんも、差綺も丹敷も、そして紗良さんも宿木の枝を掴んだ。
光の粒がどんどん数を増し、眩しいくらいだ。
折れなければ、敗北は決まる。
僕は、その瞬間に小さく息を飲んだ。




