第26話 下等と上等
「宿主に依存する」
貴桐さんの言葉をそのまま示すように、新たな樹木に根を下ろし始めた宿木は枝を伸ばし始める。
次々と枝分かれしていくその様は、宿った樹木の養分を得て存在を示していた。
だからといって、全てを奪う訳ではない。樹木自体は、寄生された事で枯れはしないからだ。宿った樹木が枯れてしまえば、宿木はそこに存在出来なくなる。
寄生出来る樹木があれば、宿木の存在は続く。
例え宿主がいなくなったとしても、新たな宿主へと場所を変える。それだけの事だ。
だけど……。
「……何してんだよ……これ……」
丹敷は、新たに寄生した宿木を目にしながら、不満そうに呟いた。
「だって……これじゃあ……宿木なんかなくならねえじゃねえか。次から次へと生息する……これでいいのかよ? なあ、貴桐、差綺……」
答えを求める丹敷に、差綺が口を開く。
「あ。やっと分かった? 丹敷」
差綺は、丹敷を揶揄うようにクスリと笑う。
「やっと分かったって……分かってるよ、最初から。次から次へと移り変わる。それが来贅も同じ事だって言いたいんだろ」
「僕ね、丹敷はなんかズレてるなあって思ってたんだよねー」
「お前が言うな、差綺」
「あはは。でも僕は、理解速度の違いだって事、知ってるよ? 丹敷は、体感しないとダメだもんね?」
「理解速度だと? 馬鹿にすんな」
「馬鹿になんてしてないよ? でも丹敷……やっぱり君は……」
「なんだよ?」
「何を見てたの?」
「は?」
差綺は、丹敷の様子にクスリと笑うと、根を下ろし続ける宿木に目を向けた。
まだ理解不足の丹敷を横目に、差綺は言葉を続ける。
「実を成し、種を作るその存在は、その存在を絶やさないという事。存在をただ続けるだけなら、どれでもいいんだよ。宿る事の出来るものがあるなら、どれでもね。だけど……」
差綺は、一旦言葉を止めると、ゆっくりと瞬きをする。
そして、再度開いた目は、差綺の赤い瞳がより赤くなっていた。
「宿主は宿木の不足を補う重要な役目になるんだ。その不足が補えない宿主は」
「『ハズレ』なんだろ……差綺」
差綺の言葉の続きを僕が答えた。その言葉が本当に差綺が答えようとしていた言葉なのかは、確信はない。だけどそれを言ったとしても、差綺は来贅のように、僕に対しての言葉にしないという事は信じる事が出来る。だからこそ僕は、その言葉を口に出来た。
差綺は、僕の目をじっと見つめると、静かに笑みを見せて訊いた。
「……どう思うの? 一夜は」
僕は、差綺の目を真っ直ぐに受け止めて答える。
「否定するよ、勿論」
「そうだね」
「差綺……」
僕の言葉に直ぐに頷いた差綺に、なんだか安心を覚えてしまう。
差綺の目が貴桐さんを見ると、貴桐さんは静かに二度頷きを見せた。
その様子に僕は、これでいいんだとホッとする。
「だったら、なんて言うの? 一夜」
再度、僕に視線を向ける差綺は、僕にそう訊いた。
「え……?」
差綺の目が、僕の答えを興味深そうに待っている。
そんな事を訊かれると思っていなかった僕は、返答に戸惑った。
困った顔を見せる僕に、クスッと笑みを漏らした貴桐さんの目も、差綺と同じような目で僕を見ていた。
「一夜」
圭が僕の肩にポンと手を置いた。
「超えるんだろ?」
「……圭」
例え宿主がいなくなったとしても、新たな宿主へと場所を変える、それだけの事。
だけど。
枝葉を伸ばす宿木は月を掬うように、降り注ぐ月明かりを満たす坏となる。
貴桐さんは、宿木へと手を向けた。
貴桐さんが伸ばした手から、光の粒が宿木の葉へと、雫となって留まる。
貴桐さんは、光の粒を宿木へと注ぎながら、笑みを見せてこう言った。
「宿主に力があれば、宿木は宿主を選ぶ。その差は大きい」
『俺自身が坏となり、全てを尽くす』
選ばれた者と選ばれなかった者。
満たされた坏は雫を落として零れ落ち、零れた雫は宿木を呼ぶ。
ニヤリと笑みを見せて言った貴桐さんの言葉に、僕も笑みを見せて頷いた。
「なあ、一夜。答えは上等、だろ?」




