第8話 思惑
不信感を抱きながらも僕は、男たちについて行った。
道行く人々が、男たちに愛想よく挨拶する。
男たちも穏やかな笑みを返して、親しくも声を交わしていた。
僕は、そんな様子を見れば見る程、頭の中が混乱していった。
確かに、あの塔にいる者の存在は、人々にとって信頼に値するのだろう。
大きな力。高い能力。
誰もが持てないものを持っている者がいる集まり。
医術と呪術、以前はハッキリと分かれていたものが、ここに統合され、人々に与えた希望がより大きな期待となったのだろう。
そして……。
「その後、いかがですか」
「ええ。お陰様で、だいぶ調子がいいんですよ」
「それは良かった。まあ、ご主人の場合、軽症だったので、大きな心配もなかったですしね」
「どちらにせよ、心配はありませんでしたよ。だって……」
そう答える男は、意味ありげな笑みを見せると、話をしていた塔の男の耳元に小声で伝える。
「もしもの時は……ね……? お願いしますよ」
塔の男は、言葉は返さなかったが、男と目を合わせて笑みを返した。
その笑みに、安心したような顔を見せる男は、頭を下げて立ち去った。
……口利き……か。
より良い待遇は、塔の者だけが望んでいる訳じゃない。
誰よりも自分が優先的であって。優遇される事。
その間を取り持ってくれる繋がりは、何があっても繋げておきたいところなんだ。
上へ、上へと。
立ち去って行った男と話をしていた男に視線を向けていた僕に、男の視線が僕へと向いた。
男は、僕と目を合わせると、ニヤリと意味ありげな笑みを見せた。
不快だった。
やっぱり……という思いが先に立って、ついて来てしまった自分に後悔する。
騙しはしない、なんて、そんな簡単な言葉に騙されたんだと、情けなくなった。
それでも、あの男が言ったように、自分が信じられるものを信じればいい、それだけの事だと、今はまだ始まりを見ているだけに過ぎないんだと、この先を見てみるのも悪くないとも思っていた。
この中の男たちだって、誰が信じられて、誰が信じられないか……。
僕は、肩を並べて歩く彼らを見ながら、思っていた。
あんたたちだって……見えないものは、そうだって言えないよな……?
だって……。
本音を隠したまま、その場に馴染んだフリ、しているんだろ……?
彼らの後ろ姿をじっと見つめながらをついて行く僕を、僕と話した男が振り返った。
男は、真剣な顔を向ける僕に、穏やかな笑みを見せると、直ぐに前を向いた。
……何を……思っている……?
気にはなったが、先を行くにつれて、人の気配がどんどんなくなっていく事に、辺りを見回した。
木々が立ち並ぶ道は、日が遮られて薄暗く、奥へと進むにつれ、方向が分からなくなってくる。道に迷ってしまいそうだ。
時折、通り抜ける風が木々の枝を揺らして、ガサガサと音を立てた。
だんだん道という道も見当たらなくなり、木々や草木を掻き分けながら進む。
足場も悪く、坂も登ったり、下ったりだ。
彼らに必死でついて行くが、息が切れ、見失わないようにするのが精一杯だった。
こんなところを平気で進めるなんて……下層といってもそれなりに力があるって事か。
「大丈夫か、兄ちゃん」
「……大丈夫……です」
僕と話した男が僕を気にして引き返し、手を差し伸べた。
……なんで……この人は……。
僕は、彼を見ながら、その手を掴むべきか迷っていた。
疲労した体。大きな段差。その上に登らなければならないのに、足に力が入らない。
差し伸べられた手を中々掴まない僕に、彼は少し寂しげにも見える笑みを見せた。
「……すみません」
なんだか申し訳ないと思ってしまった。
疑っている気持ちが消えた訳ではないから。
やっぱりその手は掴めない。
彼は、差し出した手を下ろすと、彼より下にいる僕と、距離を縮めるように屈んだ。
「なあ……お前……兄弟いる?」
「え……?」
僕は、彼の言う言葉に驚いた。
「似てるんだよな。上階にいる奴に」
僕に……似ている奴が……?