第25話 単一と複合
『これもハズレか……残念だな』
呪縛のように、ずっと頭について離れなかった言葉。
『ハズレ』
違うと否定する事がいいとは思えなくなった。
その存在がある事で、起こらなくてもいい事が起きている。そう思えてならなかった。
「…… 一夜」
僕を心配するように、肩に置かれた圭の手が重く感じた。
「……うん」
僕は、ただ頷いただけだった。
不安を抱えているのは、僕だけじゃない。
みんな分かっている事だ。そんな中で僕が気落ちして暗くなったら、先に進む足が遅くなるだけだ。
ただ……頭に浮かんで離れない言葉。僕の心境は複雑だった。
「一夜。自分が存在しなければ、こんな事など起こらなかったんじゃないかと思うのは、大間違いだからな」
……貴桐さん。
しっかりしろと、少し怒ったようにも僕を見る彼の目を、じっと捉えた。
僕が思ったまんまの事。
隠せやしないそんな思いを貴桐さんは、直ぐに見抜く。
だけど僕は、返答に迷った。
それは違うと言ってくれた事は、素直に受け止められ、心の重荷は軽くなったが、頷く事が自分に対しての甘えになるんじゃないかと思ったからだ。
「……なあ、貴桐。仕掛けるのが早かったんじゃねえ?」
僕が言葉を返せないでいた中、丹敷が口を開いた。
きっと丹敷も、僕に気を使ってくれたのだろう。
僕に向いていた貴桐さんの目が、丹敷に向いた。
「……丹敷……お前、何を見てたの?」
「あ?」
「あ? じゃねーよ。来贅が何を媒体にしてると思う?」
「媒体?」
まるで分かっていない丹敷の様子に、貴桐さんは呆れた溜息をつく。
「差綺……お前、何とかしろよ」
「えー。僕に振らないでよ、貴桐さん」
「丹敷のお守りは、お前だけで十分だろ」
「僕、面倒な事、嫌いなんだよねー」
「そう言うなよ。幼馴染だろ、面倒みろよ」
「うーん……まあずっと一緒にいたけどねえ…… 一から説明するって、結構大変だよ? それに一夜と違って、頭で考えるタイプじゃないし」
「おい、お前ら……お守りって何だよ? 面倒ってどういう意味だ?」
貴桐さんと差綺は、丹敷をちらりと見ると、同時に溜息をついた。
「なんだよっ?」
苛立った丹敷の態度を他所に、貴桐さんと差綺は、宿木が立っていた場所へと向かった。
丹敷は、不満を吐き出しながらも二人について行き、僕たちも後についた。
『だから……お前も私に返る運命……いや、宿命か』
貴桐さんと差綺は、屈むと地に手を置いた。
「……やっぱり……そうか……」
二人の動きに侯和さんが、そう静かに呟いた。
「……圭。だから……いつでも自由になれるんだね……」
僕の呟きに圭が頷く。
「……ああ」
地面には、いくつもの宿木の実が落ちていて、貴桐さんが描く円と差綺の張った網が重なり、実に繋ぐようだった。
ピキッと小さな音を立てて実が割れると、中からどろりとした液体と共に種が飛び出した。
飛び出した種は、新たな樹木の枝に張り付いて根を下ろし、寄生が始まる。
宿木は……地面に根を張らない。
だが宿木は、寄生した樹木から力を全て奪って生きている訳じゃない。
自分自身で生きられる……その術も持っている。
それでも……。
貴桐さんと差綺は、その様子を眺めると、後ろに立つ僕たちを振り向いた。
貴桐さんがゆっくりと口を開く。
「宿木は、必要なものを得る為に……」
続けた言葉は、はっきりと耳に残った。
……来贅。
心臓はそれ自身で動く事が出来る。
だけど……生命を維持するのに必要なものを得る為には……。
「宿主に依存する」




