第24話 相対と絶対
「構築出来るのは『手段』それが答えです」
不快な感情を示しながら言った圭の言葉に、貴桐さんは気鬱そうな顔を見せて溜息をついた。
「手段……ねえ……?」
貴桐さんは、皮肉めいた口調で、圭の言った言葉を口にした。確かにそう聞いても納得出来ないのは、僕も同じだった。
聞き返したくもなるのも分かるが、その問いの相手が誰であればいいのかは、貴桐さんも僕たちも分かっている。
だけど、来贅に言ったとしても、それがどうしたと返されるだけだろう。
「圭さん……柯上先生がそれを手に入れたのは、柯上先生は塔の中を知っていたという事なんですよね……」
「紗良、はっきり言ってくれていい。全て知っているんだろ。間木先生が言っていたんじゃないのか」
圭と紗良さんの目線が、真っ直ぐに合う。
紗良さんは、一呼吸間を置くと、真顔のまま、重い口を開くようにゆっくりと答える。
「はい。柯上先生は、一度……塔に入った事があると……言っていました」
「え……」
僕は、一瞬だけ驚いたが、直ぐにそれは理解出来た事だった。
だって……僕が教わったその医術と呪術は、塔の中にあるんだから。
それを奪われたから、取り戻すと圭は言っていたし、塔に入るのを拒否した呪術医全てが殺された訳じゃない。
……塔から……出たんだ。だから……。
それでも納得などいくはずがなく、僕は悔しさに歯を噛み締めた。
圭と紗良さんの話を聞く貴桐さんは、重い溜息をつくと口を開く。
「ふん……人体に特化する呪術には、呪術と共に目に見える『材料』を要するって訳か。圭、一つ訊いておくが……それはお前の父親が作ったものか?」
「いえ。知識だけ……そうは言っても……それは作ると同等ですか……」
「責めどころは……正直、何とも言えないが、危険な知識だな……それが塔の中、か……最悪だ」
「貴桐さん……」
「どうした? 咲耶」
「悠理さんのお婆様が塔に連れて行かれたのは、その材料を探す為だったのではないのでしょうか」
「え……なに、一夜、婆ちゃんが連れて行かれた?」
塔にいても、圭は知らなかったのか……。
「あ……いや、もう大丈夫なんだけどね……僕が何とかしたから……」
……僕が、というより、綺流だよね……。
「だから……あの時、お前が塔にいたのか……」
そっか……あの時、僕が消える瞬間に見た圭は、やっぱり本当の圭だったんだ。
でも圭は、綺流と僕の事、疑問に思わないんだな……元々、綺流は僕の中にいたって知っているんだから、不思議はないんだろうけど……。
「うん……」
圭には色々と聞きたい事があるけれど、それよりも圭の話を聞く方が先か……。
「……成程ね。材料は、身近なところにある、か……」
貴桐さんが頷くと、圭は言葉を続けた。
「貴桐さんだって、知っていますよね? 『先生』と呼ばれる人間は、他人の知識体系をインプットした機械だと」
他人の知識体系をインプット……そうだ……侯和さんもそう言っていたっけ……。
「……ああ」
貴桐さんは、不快な顔を見せながら、低く頷いた。
「だから目的は同じなんですよ。何の疑いもなく、ただ一つのものに向かって動いているだけです」
「そこにはない、それ以上のもの……それを奇跡と呼ぶなら、そこにあるのは『可能性』だけだろ……」
貴桐さんは、そう言って深い溜息をつくと、言葉を続ける。
「正直……俺たち呪術師だって、可能性に賭けてる部分もあるよ。だが……そこには『絶対』が付き物だ。そうじゃなければ、呪術師なんて名乗れやしない。その『絶対』がそれって訳か」
貴桐さんの言葉に、侯和さんが答える。
「ああ。そんな絶対的な力など、誰もが持ち合わせている訳じゃない。当然『宿』だって同じだ」
「侯和……」
侯和さんに目を向ける、貴桐さんの目つきが鋭く変わる。
「その意味がここに結びつく事が分かっただろ、貴桐」
「……ああ」
貴桐さんの目線が僕へと向く。
僕は、貴桐さんの真っ直ぐな目線を受け止めて、答えた。
「あの時は、言われた事だけに驚いていましたけど、それって周りにあったものは、偽りばかりだったって分かる事でしたよね……」
後から来る違和感に、苦笑が漏れた。
「だから僕が……『本物の宿』だって事なんですね」
だけど……いや……だから……。
来贅の言う言葉が、そういう事なんだと分かった。
『これもハズレか』




