第19話 生と死
結果から導き出される答えは、始まりにある。
後悔するのは、始まりにあった答えに気づかなかったからだ。
勿論、何が始まるかなんて分かりもしなかった事だが、それに対しての答えなんて導き出せるものじゃない。
だけど繰り返される事なら、そこに作られ、構築されたものに変化を加えれば、答えは変わる……。
始まり……。
死を目前とした者がある呪術を使うと、止まりかけた心臓が動き出した。
『ある呪術を使うと』
慣れた環境に馴染み過ぎるのは、勘を鈍らせる。
何度も同じ言葉を聞いていたのに、それに違和感を覚える事もなく、当たり前の事のようにその言葉は流れていた。
医術と呪術。
『当然、呪術のみを行う呪術師がいた』
呪術師は、そこにはない力を、手に入れる為の方法を知っていた。
そして、呪術師がいたなら当然、医術のみを行う医師もいたって事だ。
医術の限界は呪術を巻き込み、いつしかそれが入り混ざって、呪術医と呼ばれるようになった。
呪術医は、呪術という言葉に慣れ、その神秘に陶酔し、自らの手に追えないものを呪術という方法で医術に混合し、術を組み合わせた。
それがあらゆる面から選択出来るように増えていった。
それが術式だ。
塔が術式ごとにブロックで分けているのは、そこから来ているのだろう。
元々は、家々に伝わる気休め程度の呪いが効験を現し、広まっていったものだろうが、そこからは呪術師を名乗る者などいなかった。いや……逆に呪術師から家々に伝わったのだろう。
呪術のみを行う、呪術師がいたのだから。
そしてそれは、呪術が医術を超えた事を証明している。
呪術師たちが集う場所。頼れる場所は、もうそこにしかなかった。
もっと深く、もっと強い力を得る為に。
それは自分の中にはない、自分の望むべきものが与えられる神秘の場所。
枝分かれした宿木は、そこに集いし者に分け隔てなく力を与えた。
同じ……宿木に。
来贅は、呪術師は信用しないが、呪術そのものは信用していると言っていた。
来贅は……医師だった……。
だったらなんで……。
ああ……馬鹿だな。医術の限界が呪術を巻き込んだんだ。医術の限界を知ったなら、そこに行き着くのは当然なのだろう。現に僕だって……。
僕は、繋がりを見つけたように、丹敷の顔を見た。
『出来る限りの事はする……それしか言う事は出来ないだろう……聞き飽きたよ』
「なんだよ?」
目線を向けたままの僕に、丹敷は怪訝な顔をした。
「医術の限界……保障は……何処にもない……あるのは可能性だけ……治せないものは治せない……」
「一夜?」
ポツリポツリと静かに呟く僕。圭がどうしたんだと僕の顔を覗き込んだ。
「圭っ……!」
「なっ……なに、どうしたんだよ? 一夜」
肩を掴んだ僕に驚く圭だったが、僕の言葉を待っている。
「治療の限界を決めるのは誰だ……? 僕たち呪術医だろ……」
「…… 一夜」
僕の言葉に、圭の表情が変わった。きっと僕が何を思ったのかを察したのだろう。
だけどそれは、僕に対しての不安を見せていた。
「全てを知り尽くしても、回避出来ない死だと誰よりも早く知るのも、僕たちだよね……?」
治せないものは治せない。
治らないものは治らない。
「延命治療で生き長らえる事は、死を待っているのと同じ……」
僕は、丹敷にまた目線を向けた。
スウッと吹き抜けた風が、片側だけ伸びた僕の髪をそっと揺らした。
「一時的な緩和で……補えはしない……ねえ……差綺……」
僕の目線は、丹敷を見たままだったが、僕は差綺に言葉を向けた。
『差綺……お前は、その理屈を知っていただろう?』
「その『理屈』を教えてよ」
だって……。
『守る為に必要な事は……自分が存在し続ける事……だから消えたりしない』
一体、どっちが守り、どっちが存在を望んでいるのか……分からなくなる。
避けようのない死を、避けられる術を持つ来贅に、命を懸けて闘う事は、道を違えて擦れ違っているように思えた。




