第18話 因循と変革
圭が掴んだ手を掴み返し、僕は、圭を起き上がらせた。
複雑な心境ではあったが、圭が戻って来た事が大きく胸に広がり、笑みが溢れたが、僕は直ぐに俯いた。
「馬鹿はどっちだよ……圭……」
呟いた後に顔を上げると同時に、圭の襟元を掴んだ。
「一緒に……闘おう……圭。もう…… 一人でやろうとするなよ……」
「一夜……ごめん」
切なげな声に、あの時の侯和さんと貴桐さんの会話が重なった。
『……ごめん……貴桐』
僕は、後ろを振り向いた。
片膝をつき、腕を押さえる貴桐さん。
咲耶さんも、差綺も丹敷も倒れたままだ。
等為さんと可鞍さんは、侯和さんと紗良さんを守るように、彼らに覆い被さったまま倒れていた。
誰かを助ける為の犠牲は、誰に責任があるのだろう。
原因を作った者なのか、誰か一人を救おうとした者なのか。
そんな責任転嫁が浮かぶ頭が嫌になり、自分を責めずにいられなかった。
『……俺に……謝るな』
それを……止められなかった自分も責めずにいられなくなるんだ。
僕が。僕が。
僕の中にあるものが、原因を作って。
僕が救った事で、犠牲が出た。
原因も全て、僕なんじゃないか……って。
だけど『ごめん』って謝るのは、自分のせいだと思っているからなんだ……。
「一夜……『大丈夫』」
「圭……」
圭は、僕の手をそっと引き離すと、貴桐さんの元へと向かった。僕は、圭の後を追う。
「診せてもらってもいいですか」
貴桐さんの腕に触れる圭は、肩から流れる血に指先を置いた。
圭の指先から白い霧のような煙が、貴桐さんの肩に巻き付いた。
圭をじっと見る貴桐さんに、圭は自信を持った態度で答える。
「血……止まったでしょう」
「……ああ」
圭の言葉に頷いた貴桐さんは、目を伏せ、落胆した溜息を漏らした。
「それ以上、流しても無駄なだけです」
貴桐さんの思いを察していたのだろう、圭はそうはっきりと言った。
貴桐さんにとって、彼の流す血はその力を得る為に必要なもので、その血を使う事で僕たちを助けようとしていたんだ。
きっと……貴桐さんは、倒れたままの咲耶さんたちを守る為にも、血を流し続けていたのだろう。
「……圭……お前に何が分かる……俺には俺の……」
「貴桐さん……」
圭は、貴桐さんの言葉を遮った。
「それを言うなら、俺には俺の構築した知識があります。もう……その血を流さなくても満たされたはずです。あなたがその力を血に頼るのと同じに、俺にもあるんですよ。だから……分かるんです」
圭は、そう言うと、咲耶さんたちへと目線を変えた。
「守る為に必要な事は……自分が存在し続ける事……だから消えたりしない」
……圭……。
「特に差綺……お前は、その理屈を知っていただろう?」
圭の言葉に、クスリと笑う声が聞こえた。
え……。
「なあんだ。そんな事まで知っちゃったの?」
「差綺……!」
起き上がった差綺に、僕は良かったと涙が出た。
「来贅の心臓を持っていただけの事はあるね。結果的には取り替えちゃったみたいだけど? それともそれは、圭……君の想定内?」
「想定外だよ」
「ええー? 想定内だから手放したのかと思ってた。まあいいや。ねえ、丹敷。起きてよ。いつまで寝てんの?」
「うるせえな。話の途中みてえだから、邪魔しないようにしてるだけだ」
「丹敷……良かった……」
「なんだよ、一夜。俺たちを何だと思ってるんだ。繋いでもらった命だ。二度もやられたりしねえよ」
「え……それを言うなら三度目じゃないの……?」
「あ? なに言ってんだ? 一夜。どういう意味だよ?」
どういう意味って……この間も……やられたじゃん……って言えないか。本人、自覚ないし。
「いや……なんでもない」
丹敷を見てると、あんまり細かく考えない方がいいのかな……って思ったりする。
僕は、思わず苦笑した。
「宿木全て……それを倒すと言ったのは僕ですから。後は主に従っただけです」
「咲耶さんっ……!」
『宿木全てを切り倒し……坏を落とします』
『俺が坏となり、全てを尽くす』
あの言葉は……そういう意味だったんだ。
宿木全て……それは貴桐さんを慕う咲耶さんたちの事で、坏に満たされたその力は貴桐さんに与える力になる。だから貴桐さんは、その力を持って全てを尽くすと言ったんだ。
「それに……等為と可鞍は守護を基としています。必ず……守っていますよ」
咲耶さんの言う通り、侯和さんと紗良さんは無傷だった。
圭は、侯和さんに視線を向けた。
「侯和さん……あなたが塔に奪われた呪法……抑える事が出来ませんでした」
「……集めているうちに、その呪法を超えたんだよ」
「そうですね……それを植え付けた体には、知っての通り、人格変成が起こります。催眠レベルの話を超えているんです」
本物は一つしかない……だが……それは姿も同じ事……。
死を目前に……死を回避する……。
『全ての臓器を取り替えて、新たに作り直す事が出来たなら、苦痛に耐える治療も、いつ死ぬとも知れない恐怖も全て取り払えると。勿論……『器』はそのままで、な……』
その存在を保ち続ける事は、生への執着なのだろう。




