第7話 動力
男たちの言葉に、僕は不安になった。
分離…… 一体、何が……。
「あはは。分離って言ったって、その選択肢を持っている奴は限られる。優遇はされるだろうが、結局は飼い犬だよ」
「俺たちより、断然マシだろ」
「まあな。だけど、高い能力があればある程、主様に繋がれる。それはいい意味でも悪い意味でもな」
主様……。
「まあ、俺たちのような下っ端の方が、雑用は多いが課せられる負担は軽いってもんだ」
「ふん……そう本当に思っているのか? こうでもしなけりゃ、生きる場所さえありはしないと言われているようなもんだろ。力じゃ当然、敵わないんだからな。何事もなければ負担は軽いが、何か起これば直ぐに切り捨てられる。所詮、捨て駒だ」
「……それで……満足なんですか……」
男たちの会話に苛立った感情が抑えきれず、僕は口を挟んでしまった。
「……なんだ……? お前……」
「そんな場所に何を求められるって言うんですかっ……!」
抑え切れなくなった思いが、胸を騒つかせて、圭が今、どんな思いであそこにいるんだろうと思ったら、耐えられなくなった。
僕は、両手をグッと握り締めて、男たちを睨みつけた。
そんな僕を見て、一人の男が僕の前に立った。
「あのなあ、よく聞けよ、兄ちゃん。生活の基盤が何処にあるかってな、労働力を求められる人間にあるんだよ。動ける奴が動くしかねえだろ。それがその家の動力になるんだよ。分かるか? 要するに体が資本って訳だ。それがダメになってみろ。どうなると思う? その家は終わりだ。それを主様は、続けられるようにとお考えになられてるって訳だ」
一人の男が宥めすかせるようにそう言って、僕の肩をポンと叩いた。
僕は、それでも納得出来ず、目の前の男に言う。
「あなた方は捨て駒だって……分かっていてもですか……? そう言っていたじゃないですか……。おかしいじゃないですか。そんなので守ってもらってるって言うんですか……? そんな訳ないじゃないですか」
食い下がるように言う僕に、男は呆れた溜息をついた。
「ついて来るか?」
「え……?」
「今から俺たちは、自然環境を治癒出来る呪術医……その存在を確かめに行く。それについて来るか?」
男の言葉に僕は、少し驚いた。
反発するような僕の態度にも、穏やかに話す男に、僕は言葉を返せなくなった。
男の後ろに立って、僕と男の様子を見ていた数人の男たちも、穏やかな表情で頷いていた。
……なんで……?
僕は、訳が分からなくなった。
僕が間違っていたというのか。
そんな疑問さえ、ふいに浮かんだ。
圭の両親の事。
圭の事。
全部奪われて、何にもなくなって。
それは事実なのに。
圭の両親は……悪くなかった……。なのに……。
……僕が……間違っているの……?
だから圭は行ってしまったのか……?
……圭……。
分からないよ。分からない。
「どうする? ついてくるか?」
男の言葉に、僕は迷った。
「なに、心配する事はない。騙しはしないよ。お前をどうこうするつもりはない。お前が信じるものは、お前が決めればいい。それだけの事だ」
……なんで……この人は……こんなに穏やかでいられるのだろう。
だけど……。
男は言った。
僕の迷いを振り切るように。
それは、隠れた本当の意味を探させる為だったのかもしれない。
僕は、男のその言葉に、彼らについていく事を決めた。
「そこにあるものなら、見る事が出来るだろう。だが……そこにないものは、あったとは言えないよな……?」