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第12話 願望と欲望

 来贅の中から影が掴んだもの……。

 それを掴むと影は、崩れ落ちるように地面に溶け広がった。


「返して欲しいと言うから、返してやろう。その内臓……全て、な……」

 ニヤリと笑みを見せて僕たちを見る来贅。

 取り返しても……取り戻す事など出来ない。

「また一つ……叶ったな……?」

 来贅は、そう言ってクスリと笑った。

 また一つ……叶った……?

「貴桐さん……」

 僕は、貴桐さんを振り向いた。

 貴桐さんは、来贅をじっと見据えていた。

 地に溶け落ちた影が、内臓を覆ったまま、悲しげにも蠢いていた。

 来贅は、手を僕たちへと差し出すように伸ばすと、また口を開く。

「お前もこちらへ来るか? 始まりから始めると言うなら、もう一度、こちらに来ればいい。なに、一度、塔から出た事を裏切りだと思うなら気にするな。貴桐……そうしたらそうだな……」

 そう言いながら、貴桐さんに向けた視線を僕へと変えた。


「望む事……全て、思いのまま、だ」


 なに……?

 僕は、来贅の言葉に、瞬きさえ止まった。

 なんで……来贅が……その言葉を……。


 貴桐さんは、舌打ちをすると、片足を後ろへと地面にそっと滑らせた。

 貴桐さんの動きに、ちらりと目を向けた来贅は冷ややかな表情を見せて言う。

「無駄な足掻きはやめておけ。お前が動けば動く程、犠牲が増えるという事が分からないのか」

 貴桐さんが動きを止めると同時に、来贅の足が地で蠢いたままの影を、内臓ごと踏み付けた。

「「……っ!」」

 飛び散る黒い影は、血と混ざり合って来贅を染める。

 来贅は、顔に飛び散り、頬に伝うその雫を拭う事なく僕たちを見ていた。


「まだよく理解していないようだから、初めから説明してやろう。全てのペイシェントを抱える塔は、生と死が集う場所だ。もう生きられないと治る事などなくとも、その中にはまだ使えるものも残っている。最終的にその心臓が鼓動を止めるまで、生は保障される。だから集めるんだよ……使える臓器をな。無駄のない使い方だろう?」

 平然とそう口にした来贅に、貴桐さんが苛立った声をあげる。

「……ふざけるな……治療以前に選んで、物同然の使い捨てだろ……そこで生が決まるのは、もう少し待てば使えるようになるかどうかだけだ。お前の必要な部分をだ……!」

「ああ……なんだ。全く無知ではなかったようだな。だがそれでどうする? 策でもあるのか? 塔に集められたペイシェントの数は、お前も見て来ただろう。いくらでもあるんだよ、いくらでも。今、お前たちがこうしている間にも……いくらでも、な……」

「来贅……」

 貴桐さんの手が悔しさを握る。

 それは僕も同じだった。

 ……来贅を倒すだけじゃ……いや……倒せない。


「お前が私から奪えば奪う程、その数は増える。それでいいのなら、奪え」


 来贅の余裕な態度は、絶対に死ぬ事はないという自信なのだろう。

「…… 一夜。張れるか」

 小声で僕に言う貴桐さんの言葉を、僕は直ぐに理解した。

「はい」

「じゃあ……行くぞ」

 貴桐さんの足が、少しだけ先を擦る。

 僕は、胸元の印に思いを繋げるように指先を滑らせ、その指で地面に触れた。


「心臓はそれ自身で動く事が出来る。……最終的にその鼓動が止まるまで……か。だけど来贅、お前は大事な事を忘れているよ」

 僕がそう言うと同時に、地面に青と赤の線が網のように描かれ、来贅へと伸びた。

 僕は、その網を操るように指先を来贅へと向けると言った。


「その心臓の役割には『血液』が必要だ。だから……その『元』を奪ってやる」


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