第9話 変化と同化
張り巡らせた網を透過して、結びつけられる繋がりは、綺流を呼んだ。
僕と同じに白い髪に蒼い瞳。髪の長さは綺流の方が長いが、そこに現れた綺流の顔は、僕には似ていなかった。
だけど僕は、この姿を一度、見ている。
「巡り合い……か。待っていただけの事はあったか……な」
貴桐さんは、そう言ってニヤリと笑みを見せた。
僕は、少し俯いて苦笑する。
……貴桐さん……もしかして……。
頭の中に溢れる記憶と、ぶつかり合うように響く言葉が、僕の手を動かした。
『俺たちはもう一度、始まりを作る事にすると決めた』
僕の手は綺流の胸元を狙ったが、綺流は容易に僕の手首を掴んで止めた。
「……どうされましたか?」
クスリと笑う綺流。僕は、綺流から手を振り解く。
「……いや……お前の心臓を確かめようと思っただけだよ」
「ふふ……やはり……気になりますか……?」
「それが……お前の本当の姿だというのか? 綺流……思い出したよ」
そう言いながら僕は、綺流を冷めた目で見ていた。
ここが始まりなら……僕が見ていたのは、僕が見た最後の結果だ。
『綺流とお呼び下さい』
『望む事……全て、思いのままに……』
『あなたが殺せと言えば……殺します。勿論……躊躇なく』
あの目を見ていると、不思議な感覚がした。
僕でいて、僕じゃない。分かり合おうとしても、分かり合えない。
現れる冷酷な感情は、止めようとしている自分を押さえつけるようだった。
僕に憎しみを植え付けるように。
その感覚と……同じだった。
『お目にかかれて光栄です。精霊使いの継承者……やっと巡り会えました』
……あの時、初めて聞いたあの言葉……。
精霊使いの『継承者』
『やっと巡り会えた』
「あの時は……何が起こったのか分からなかった。何故、お前が僕の前に現れたのかも……」
それでも聞かれた事に、すんなり答える事は出来なかった。
時を通り抜けて、繋がったものからその位置に戻ったら、それが何故なのか気づく事が出来た。
僕は、目の前に現れた綺流をじっと見つめた。
僕の中にはまだ、圭の心臓がある。
『一つ……お聞きしてもよろしいでしょうか。あなたは……その中に何をお持ちですか……?』
「何故……お前が知る必要がある?」
本当にこの存在が綺流なら、僕の中にあるものを聞く必要はない。
僕の中にある、圭の心臓は、僕が綺流から渡されたものだからだ。
綺流が知らないはずがない。
「……似てるんだよな」
そう呟いた僕に、貴桐さんの口元が笑みを見せた。
「『その知識体系は様々……思考様式もな。そこに変革が起きて、事を自身の中に治めようと、体裁だけ繕って、最終的な答えに帳尻を合わせる』……か。納得するよ……」
貴桐さんはそう言うと、差綺へと目を向けた。
「差綺」
「任せといて、貴桐さん。丹敷、行くよ」
「ああ」
差綺と丹敷が、僕たちのいる宿木の近くへと走った。
咲耶さんと等為さん、可鞍さんが周りを囲む。
「「縛」」
彼らの声が重なると、宿木から網が落ちる。
差綺……この為に……。
『誰も気づけない隙に……張っているんだからさ。いつの間にかそこにあるって、ね?』
「似てるんだよ……お前……だから……」
僕は、綺流を見ながら、はっきりとした口調で言った。
「始まりから、始めようか。来贅」




