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第8話 回帰と巡回

 医術の限界は呪術を巻き込んだ。

 『助けて……下さい』

 幾度か口にしたその言葉は。

 『助けて下さい……僕の心臓なんて……いらないから』

 呪術師を……巻き込んだ。


 それは。

 酷く苦痛で。あまりにも残酷な結末は、僕の一部になる事を拒否した。


 僕の『時』は欠落したまま、夢でも追い掛けているように、新たな『時』を探していた。

 ここに辿り着くまでに望んだものは、いくつあっただろうか。

 結びつけようとしても、結びつけられないもどかしさと。

 その中で感じる不安と恐怖が、僕に諦めを訴え掛けていた。

 だけどその諦めは、僕が気づきたくなかったものを封じ込める為の安心で。

 不都合な部分を都合よく変える……そんな奇跡を信じていた。

 巡り巡って回帰する。

 これが運命でも、それが宿命でも、彼らに会う事は僕自身、望んでいた事だ。

「一夜」

 頭を抱えたままの僕の肩に、貴桐さんの手が触れる。

「……貴桐さん……僕は……」

 塔が出来てから、不自由が大きくなって、僕に出来る事が減っていった。

 もっと僕に力があったなら、誰かを失う事もなかったと、減ったものを補う為に、その思考は呪術に傾いた。

 『当然、呪術医ですから、医術も呪術も使いますが、不便の中のその思考は呪術に大きく傾きます』

 紗良さんと話したあの言葉も、僕が以前から持っていたものだった。

 そして何故、彼らが僕を否定せず、受け入れてくれたのか。

 僕と共にいる時間を作れたのも。


 所々に散りばめられたその欠片は、僕が僕を取り戻すには十分(じゅうぶん)だったんだ。


 『降伏するならこれ以上、手を出すのはやめてやろう…… 一人くらい見逃しても痛くもない』


「僕の為に……降伏したんですね……」

 来贅が僕を知っていたのは、当然だった。


 『これもハズレか……残念だな』

 踏みつけられた頭の感触が蘇る。

 僕が僕を使い果たしても、あの時は……何も起こるはずがなかったんだ。

 いや……起こってはまずかった。

 もし僕があの時に綺流を呼び出していたら、僕は来贅に引き込まれただろう。

 自分の力量を知らない者は、相手の力量も知る事は出来なかったのだから。


「貴桐……だからお前は……反対していたんだな…… 一夜に同じ思いをさせない為に」

 侯和さんの言葉に、貴桐さんは静かに苦笑した。

「俺も同じものを望んだからな……だがそれを手にすれば、来贅はまた狙ってくるだろう。本当は……何もない方がよかったんだ。だけどそう望むのも、俺たちだけじゃなかった。は……まさかお前まで絡み合ってくるとは思わなかったけどな……塔で会ったのも運命なんだろうな」

「圭が塔に行ったのは……その後か。気づいたんだな……圭も」

「ああ。そうだな……だから俺たちも塔に入った。圭と一緒にいた彼が…… 一夜に宿った精霊だと気づいていた。だがあれは……半端で……そっくりだが……繋がりが脆い。それにお前が力を貸した時、俺たちはもう一度、始まりを作る事にすると決めた」

 ……始まりを……作る。

「その『差』を埋める為に……な」


 差綺が言った言葉を思い出す。

 終わりの為に闘わない。始まりの為に闘うと。


 何処からか、聞き覚えのある添水の音が微かに響いた。


 夢を……見ていた。

 だけどそれは、忘れられない記憶だったのかもしれない。


 ……僕の中に眠るもの。眠っていたもの。

 目を覚ましたら僕は。

 そこにはないものを手に入れた。

 それがこの結果だと、僕は気づいている。

 ああ……ここに繋がるんだ。


 『……では、参りましょうか』

 『何処にだ……?』

 『心配しないで下さい』


 綺流が僕に与えたもの……。

 来贅……僕は。

 『ハズレ』なんかじゃない。


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